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多様な専門技術を結集する全体設計(1) モデリング手法の活用がカギ

足立 修一=慶応義塾大学,廣田 幸嗣=カルソニックカンセイ
2009/03/23 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2007年12月3日号 、pp.164-167 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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多様な技術を結集する全体設計と,その中心となるモデリング手法を解説する。パワー・デバイスや先進制御技術など移動体用パワー・エレクトロニクスの要素技術を高度に統合することは,日本のお家芸であるはず。これまでにない新製品の登場を期待していると著者陣はいう。(日経エレクトロニクスによる要約)

 モービル・パワー・エレクトロニクスを用いた具体的な移動装備の例として,(1)身体機能の拡張を目的として人が操作するタイプの製品群と,(2)身体機能の代行を目的とした自律ロボットのような製品群,がある。これらの製品群では,蓄積・変換・回生が容易な高効率の電気エネルギーが多用されている。また,機構部品や油圧によるパワー伝達からPower-by-Wire,すなわち電線によるパワー伝送にすることでレイアウト自由度が高まる上,制御性も向上する。こうした理由からパワー・エレクトロニクス技術を応用した移動装備は,応用範囲がますます広がるだろう。本稿では,総括としてモービル・パワー・エレクトロニクスの全体設計と,そのキーとなるモデリング手法について解説する。

環境変動に対する高いロバスト性や適応性が必要

 固定設備に比べて移動装備の制御要求仕様は,数値的には緩やかである。半導体露光装置や工作機械では高い位置決め精度と高速応答性が求められるが,例えば自動車の停車位置や速度は自動車の制御性能というよりは運転者の運転技量で決まる。制動や駆動の加速度は制御でいくら頑張っても,タイヤと路面の状態に左右される。介護用のパワード・スーツでも,アシスト力や位置決め精度は人間本体のアバウトな精度を許容するように作られている。

 HDDや圧延機では高い速度追従性能が要求されるが,自動車のACC(adaptive cruise control)やロボット掃除機の走行速度の要求精度はそれほど高くはない。ACCでは,運転者に気付かれない程度の変動は許容される。タイヤと路面のスリップ率は時々刻々と変動するので,車輪速センサ信号から本来の制御目標値である対地車速を正しく推定することは困難である。また,自動車の交通流は上り坂やトンネル入り口で遅くなり,視界の良い下り坂で速くなる。ACCはこうした交通流に見合った速度制御であればよい。

 このようにモービル・パワー・エレクトロニクスでは,応答性や追従性の要求は低いものの,気象変動や走行路の状態などの環境変動に対して高いロバスト性や適応性が要求される。人間とのインタフェース仕様も,自分勝手で気ままな人間の要求に従って意のままに動くことが求められる。応答性や追従性の要求と比べると,環境変動への適合性や人間とのインタフェース仕様は明確な数値で記述することが難しい。

設計で重要なのは複合工学間の擦り合わせ

 移動体は電源から放熱までのすべてを含む自己完結型システムで,かつ小型・高密度に実装される。このため,内部の構造や機能は複雑になる。連載「電気自動車から2足歩行ロボットまで」で解説したように,内部複雑性の課題を解決するためのステップは,(1)部品の調和的共存性(compatibility)の確保,(2)製品適合性(worthiness)のクリア,(3)十全性(integrity)の達成,の順である。中でも,最初に挙げたcompatibilityの課題は多い。

 ハードウエア設計では電磁気的,熱的,機械的など多くのcompatibilityに関する課題がある。また,各compatibilityの課題間で相互干渉も強い。例えば,電子ユニットのelectro-magnetic(電磁気的) compatibilityを解決するためにパワー・デバイスのスイッチング速度を落とすと,大抵の場合はthermal(熱的) compatibilityが犠牲になる。最近の超高密度設計では,不要なマージンをギリギリまで削って対処しているため,各要素技術間の相互依存性がますます強まっている。

 複雑になってきたソフトウエア設計のcompatibility検証に対しても,シミュレーション・ツールが必須である。ソフトウエアの課題はハードウエアとは独立に解くことができるものが多いが,情報通信の物理層やCPUの負荷率など両者が絡む課題もあるので注意を要する。

 compatibilityを克服し製品適合性を満足した最終製品は,少数の突出した性能よりもトータル・バランス(integirity)が求められる。一般に設計要求の連立方程式をすべて満足することはできない。擦り合わせの過程で,何らかの技術的な妥協が必要だ。デザイン・ルールをがっちり決めて分業の境界を明確にすると,良いクルマが作れない。設計の全プロセスにおいて,複合工学間の擦り合わせが極めて重要となる。

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