数Gビット/秒を超える高速伝送系の設計・評価の要点を紹介してきた連載の最終章。今回は,これまで説明してきた信号波形から各種ジッタ/雑音を分離する方法を利用し,実際にデータ依存成分や周期性成分,ランダム成分を信号波形から取り出して分析する手順を紹介する。(日経エレクトロニクスによる要約)

 3回にわたり,確率論的なBER(ビット誤り率)設計を行う上で必要なポイントとして,信号波形のアイ・パターンの評価,ジッタや雑音の成分の種類,ジッタや雑音をランダムなものとそれ以外のものに分離する方法を説明した。今回はその続きとして,分離したデータ依存のジッタや雑音を評価する方法,周波数ドメインで見た周期性のジッタや雑音の解析例,ランダム雑音を正確に導出する方法などを紹介する。

平均波形から評価するデータ依存ジッタや雑音

 疑似ランダム・データ・パターンの波形を複数回重ねて求めた平均波形を分析すると,データ依存ジッタとデータ依存雑音を評価できる。

 まずは,データ依存ジッタを評価してみよう。「高速化で強まるジッタや雑音の悪影響」の章で紹介した分離方法によって得たデータ依存ジッタを,横軸に時間(疑似ランダム・データの1回分の長さを全体の長さとする),縦軸にジッタ量(理想的なクロック・タイミングを基準にしたときの波形の位相ズレ)として表す(図11)。こうして表した図を見ると,ジッタ量は波形の切り替えエッジごとに変化が生じていることが分かる。時間ごとのジッタ量の変化(ジッタ・トレンド)を評価することで,ジッタ量が大きくなるデータ切り替え動作の条件を抽出し,どのような傾向があるのかを調べることができる。

図1 ジッタ・トレンドの分析ジッタ・トレンドの分析
結果は,伝送系がどのようなデータ・パターンに弱いのかを知り,その原因を考える情報になる。また,エンファシスの位相に対する調整の良しあしを決める指標にもなる。

 データ依存雑音を評価するときも,データ依存ジッタの評価と同様に,疑似ランダム・データ・パターンの波形を複数回重ねて求めた平均波形を利用する。0.5UI(unit interval,信号周期)位相時における,各データ・ビットの波形の差動電圧レベルを評価する(図2)。電圧レベルがプラス側はデジタル値としては“1”であり,マイナス側は“0”になる。プラス側とマイナス側,いずれについても電位(波形の振幅)量が小さくなる動作条件を抽出し,どのような傾向があるのかを調べる。

図2 電圧レベル・トレンドの分析電圧レベル・トレンドの分析
結果も同様に,苦手とするデータ・パターンやその原因を調べるための情報となり,エンファシスの電圧軸に対する調整の良しあしを決める指標にもなる。

 一般に“0101”という連続切り替えのデータ・パターンでは,伝送系の減衰量が大きいために振幅は小さくなる。一方,“0…00100”のような連続した同じレベルから1ビットのパルスが立つ場合は,パルスが立ち始める最初の信号レベルがスレッショルド(しきい値)から遠い。このため,信号電位,つまり振幅は小さくなる。

 このような位相や電圧レベルの変化を出力側の振幅で調整する方法として,出力回路のエンファシスがある。エンファシスを使用する場合,図1,図2で評価したような位相と電圧レベルの揺らぎは,エンファシスの効果をそれぞれ位相,電圧で評価することにもなっている。この位相と電圧の揺らぎが小さいほどエンファシスの効果が高く,よく調整できているといえる。

†エンファシス=高速信号を長距離伝送すると波形がなまることを前提にして,事前に波形の振幅を一部強調または抑制して出力する技術。