前回は,エラー・レートの計測技術の標準について解説しました。今回は,誤り訂正能力の計測について解説します。(連載の目次はこちら

 40Gビット/秒のような大容量信号で長距離伝送するためには,誤り訂正技術の使用が必須になります。前述したようにOTNは誤り訂正技術を用いている点がSDHとの最大の違いです。誤り訂正技術としてよく使われるFECにはさまざまな種類があります。BCH符号やリード・ソロモン符号,それぞれの改良版などが代表例です。効率の良いFEC技術の研究開発が盛んに行われています。

†FEC(forward error correction)=誤り訂正技術の一つです。伝送信号に冗長信号(誤り訂正符号)を付けることで伝送距離を延ばすことができます。

†BCH(Bose-Chaudhuri-Hocquenghem)符号=データの誤りを検出・訂正できる誤り訂正符号の一つです。名称の由来は考案者3人の名前です。BCH符号はランダム誤り検出・訂正用のブロック符号であり,複数ビットの誤り訂正ができます。

 OTNでは,誤り訂正に向けたリード・ソロモン符号が採用されています。これらの誤り訂正の性能は,今まで評価方法が明確になっていませんでした。例えば,FECは誤りの発生条件によって誤り訂正の性能が全く異なります。周期的に発生する誤りに対しては良好な改善特性を示しますが,バースト的な誤りに対しては理論通りの訂正能力が得られません。

 OTN測定器に向けたFECの誤り訂正の能力を評価する方法が「O.182」に規定されています。実際に計測する上では,FECの能力を評価するための信号源の品質保証が非常に重要になります。通常,誤り訂正の性能を評価する場合,ランダムな間隔でエラーを挿入した信号を使用して,計測対象での誤り改善率を評価します。O.182では,このランダム・エラーの挿入方法と,計測方法および計測基準値を明記しています。

ランダム・エラーの生成方法は二つ

 次に,OTNの誤り訂正能力を計測する方法について解説します。

 OTNでは採用しているリード・ソロモン符号を使って,伝送中のデータにエラーが生じても受信側でそのエラーを検出し訂正することができます。一般に実回線で起こり得るランダムな間隔で発生するエラーの訂正には,ブロック符号に分類される誤り訂正符号が用いられます。OTNで採用しているリード・ソロモン符号はブロック符号の一種です。ランダム・エラーを疑似的に発生させなければ,誤り訂正の性能と理論値曲線との比較など,FECデコーダの能力を正確に評価することができません。OTN向けの誤り訂正能力を計測するための手法を規定したO.182では,エラー発生間隔がポアソン分布と呼ばれる確率分布に近似するランダム・エラー発生器が必要になります。

†ブロック符号=誤り訂正符号は,ブロック符号と畳み込み符号とに大別されます。ブロック符号は送信データ(ブロック)に誤り訂正用の冗長ビットを付加する方式です。畳み込み符号は送信データに過去のデータを用いる方式です。

†ポアソン分布=一定の時間間隔内に,離散的な現象が発生する確率の分布です。単位時間内に平均でλ回発生する事象がちょうどk回(kは0を含む自然数,k=0, 1, 2,…)発生する確率は,次式で表されます。

 ランダム・エラーを発生させる方法は,大きく分けて2種類あります(図5)。一つは光減衰器を被計測物と信号発生器との間に挿入して,S/N(signal to noise ratio)を変えるアナログ方式です。もう一つは,デジタル的にエラーを付加する方法です。

図5 誤り訂正性能の評価に向けたランダム・エラーの発生方法
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 ただし,デジタル的にエラーを付加する場合,等間隔にエラーが発生する条件では,ほとんど誤り訂正できてしまい,FECの能力を正確に評価できない点に注意する必要があります。そこで,ランダムな間隔でエラーを発生させ,実回線に近い条件を作り出す必要があります。

 ランダム・エラーの誤り率は,長時間では設定値と一致します。しかし,ごく短時間における誤り率は,設定値とは違う値に変動します。これは実回線に近い状態であり,FECの性能を評価するために適した条件になります。