前回は,ジッタの計測手法の標準化について解説しました。今回は,エラー・レートの計測について解説します。(連載の目次はこちら

 基幹網の回線の提供者は,自社の回線の性能を回線品質クラスとして明示し,保証します。回線の使用者は明示された情報を参考にして,最適な回線提供者や回線品質クラスを選定するための判断材料にします。数ある判断材料の中でも,伝送路や伝送装置のビット・エラーは最も基本的かつ重要な指標になります。また,伝送装置の保守を行う場合にもビット・エラー・レートは伝送する信号の品質を確認するための重要な指標になります。

 ITU-Tでは伝送路や伝送装置のエラー発生状況(エラー・パフォーマンス)を,計測する対象と目的に応じた最も適する定義に基づく指標で示すように規定しています(表3)。例えばG.826では,使用中の回線での計測が可能で,ビット・エラー・レートが低い場合にも有効なエラーの発生状況を把握できる指標を規定しています。

表3 エラーの発生状況を示す指標と適用範囲の対応
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 ビット・エラー・レートの計測では,一定の計測精度を維持するためには,計測時間を一定以上にしなければならない点に注意が必要です。このため,確率的に一つ以上のビット・エラーが発生する可能性のあるビット数のデータを伝送する必要があります。計測手法や計測するエラーの発生頻度を示す指標の定義を最適なものにしておく必要があるのです。

 例えば,1000ビットにつき1ビットの割合(ビット・エラー・レートは0.001)でビット・エラーが発生し,発生するタイミングが理論値に対して最大±500ビット変動する場合を想定します。1000ビットを伝送するのに要する時間に対して,計測時間を2倍(2000ビットに相当)にすると計測誤差は±50%,10倍(1万ビットに相当)にすると計測誤差は±10%になります。

 また,計測する目的に応じても定義を変えておく必要があります。例えばSDHでは,伝送すべきデータに,管理情報や警報情報を含むオーバーヘッドを付加したフレームによって運びます。そして伝送装置の保守などでは,使用している回線でのエラーの発生状況を把握することになります。しかし単純にビット・エラーを計測すると,オーバーヘッド部分を含めて計測してしまいます。このため,既に使用している回線のビット・エラー・レートを計測することは困難です。

 通常,このような回線の計測には「CRC(cyclic redundancy check)」や「BIP(bit interleaved parity)」などのエラー検出コード(EDC)を用います。一定の長さの連続したビット列を一つのブロックとし,このブロック内にエラーがあるかどうかを検出するときに用いる方法です。CRCやBIPなどは,コードの性質上,ブロック内で一つあるいは複数ビットのエラーを検出できます。しかし,正確なビット・エラー数を計測することができません。特にビット・エラー・レートが高い計測対象の場合には,正確な評価ができません。

†CRC(cyclic redundancy check)=連続する誤り(バースト誤り)の検出が可能な誤り検出符号の一種です。

†BIP(bit interleaved parity)=誤り監視を行う情報をビット順次でいくつかのブロックに分け,ブロックごとにパリティ・チェックを行う符号誤り検出方式です。