前回は,基幹網の市場では,規格認証試験の合格基準をクリアすることに大した意味はなく,規準を超えた製品仕様を競うようになることを説明しました。このため,計測においては,製品の性能や品質を比較できる数値を明確にすることが求められます。従って,計測手法の標準化が重要です。今回は,ジッタの計測手法の標準化について解説します。(連載の目次はこちら

 ここでは,ジッタの計測手法の標準化について解説します。SDHとOTNに準拠する伝送機器や通信網の,性能や品質を表す最も重要な指標がジッタです。ITU-Tは計測手法を厳密に規定し,標準化しています。ただし,計測条件や計測器の個体差などで,標準だけでは統一できない部分があります。ここは,計測結果をシミュレーションを使って補正して,計測の精度を上げます。

 ITU-Tの中で,伝送信号の計測技術の標準は「SG4」で研究・標準化が進められています。SG4は,ネットワーク伝送機器の開発・試作時の性能評価だけではなく,製造時に必要な品質管理や保守時に必要なモニタリングなどに適用できる汎用製の高い計測技術と計測基準を規定しています。信号の品質を測るジッタに関しては,許容範囲と計測手法を,それぞれ別の規格として標準化しています。

 ジッタは,デジタル伝送のように「1」「0」信号を伝送する信号品質を保証するときの指標になる代表的な特性です。いかにしてジッタを評価するかが,信号品質の計測手法を考える上での最重要項目になります。公正な基準を使って定量的に評価することによって,ネットワーク内の装置の相互接続性や,通信機器を複数メーカーから購入するマルチベンダー化が可能になります。ITU-Tでは,ネットワ-クおよび通信機器の40Gビット/秒または43Gビット/秒のジッタ許容範囲を規定しています。SDH伝送路向けの「G.825」,SDH伝送装置向けの「G.783」,OTNの伝送装置向けの「G.8251」がこれに相当する規格です。

 SG4では,ジッタ計測手法に対する許容誤差およびその計測手法について,詳細に規定しています。代表的な規格として,SDHのジッタの計測手法を規定した「O.172」およびOTNの計測手法を規定した「O.173」があります。

 これらの規定では,計測器の誤差範囲や誤差の定義も詳細に規定しています。ジッタとワンダ計測の専門家グループであるSG4 Q5グループが2年間かけて開発検討したジッタ量の検証方法が盛り込まれています。10Gビット/秒や40Gビット/秒といった高周波デジタル信号の伝送では,ジッタが100mUIpp以下であることをいかに正確に計測するかが重要になってきます注1)。このためO.172では,単に計測誤差の許容範囲を厳しく規定するだけではなく,その計測誤差を第三者でも検証できる手法を同時に規定しています。 ジッタ計測にかかわる規格では,以下の三つを規定しています。(1)ジッタ発生,(2)ジッタ耐力,(3)ジッタ伝達特性,です。

†ワンダ=一般的には10Hz 以上の位相の揺らぎをジッタ,10Hzより小さい揺らぎをワンダと定義しています。ワンダはジッタよりも広い計測範囲が必要です。O.172では少なくとも1nsの範囲を計測するように規定しています。単位は,ジッタではUIを用いますが,ワンダではnsを用います。

注1)UIppとは,変動するジッタの振幅のピーク間で定義する変動量を指しています。