規格認証試験では,合格基準を上回る性能や品質には大した意味がありません。しかし,基幹網の市場では基準を超えた製品仕様を競うことになります。ユーザーが製品を選択するためには,基準になる統一指標が必要です。また,製造時の品質管理や販売後の保守でも,開発時と同じ基準で計測する場合があります。ここでは,基幹網向けの計測基準を題材にして,性能や品質の公正かつ統一的な計測に向けた基準について学びます。(連載の目次はこちら

 デジタル・ハイビジョン放送やビデオ・オン・デマンド,オンライン・ゲームなど,データ容量の大きなコンテンツを使用したブロードバンド・サービスが普及してきました。これに呼応するように,通信の基幹網には大容量化の波が押し寄せ,次世代ネットワークである40Gビット/秒伝送への移行が盛んになっています。

 「国際電気通信連合 電気通信標準化部門 (International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector:ITU-T)」では,これら超高速ネットワークの品質測定に使用するさまざまな計測技術の標準を作成しています。こうした基幹網向けの通信規格では,パソコンや民生機器のインタフェースで行われているような規格への準拠を認証する仕組みがありません。技術を使って製品を供給する側も,利用する側も通信事業者や通信機器メーカー,部品メーカーといった専門性の高い企業です。供給する側が自己責任で規格準拠や他社との差異化を判断して製品を開発しています(図1)。

図1 SDHに対応した伝送機器とOTNに対応した光ファイバの例

 伝送機器の性能や通信網の品質は,ジッタ,エラー・レート,誤り訂正の能力などを基準にして計測します。そして性能や品質は,規格に準拠するための許容値が決まっていますが,高ければ高いほど製品やサービスの付加価値が高くなります。この点が,一定の合格基準をクリアできれば,それ以上高性能化する必要がないパソコンや民生機器のインタフェース規格と違う点です。計測では,合否ではなく,比較できる数値を明確にする必要があります。

 ここで大切な点は,性能や品質を誰もが疑いなく比較できる確かな基準を持つことです(表1表2)。通信機器のユーザーが,採用する通信機器を明確かつ公正な基準で比較検討できるようにする必要があります。また,製造時や保守時にも利用できなければなりません。光モジュールのような部品と完成品である伝送装置の特性を,同じ尺度で測れるようにもしなければなりません。

表1  SDH/OTNの信号品質評価における計測面の課題と対策
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表2 SDH/OTNに関連してITU-Tで標準化した技術例

 ここでは,基幹通信網で使われる40Gビット/秒の通信規格であるSDH (synchronous digital hierarchy)方式とOTN(optical transport network)方式を題材にして,機器や通信網の付加価値である性能や信号品質を計測するための標準技術を解説します。

伝送装置などの特性の計測手法を標準化
 計測技術の標準を紹介する前に,対象となる通信規格の特徴を紹介します。

 ITU-Tは,13のスタディー・グループに別れて技術標準を作成しています。その中で,ネットワークおよび伝送方式に関する標準化を行っているのが,「Study Group 15(SG15)」です。SG15では,電気と光を媒介した伝送網の基礎技術のうち,大容量伝送に向けた新しい伝送方式の研究・標準化を行っています。その対象技術の代表例が,40Gビット/秒までの伝送を想定した世界共通の大容量伝送方式であるSDHです。規格名は「G.707/Y.1322」です。北米では,「SONET (synchronous optical network)」という名称で規格を標準化しています。