前回は,HDMIの規格認証試験と,計測面での課題と対策について説明しました。今回は,ソースの試験で行う実際の計測手法と,つまずきやすい注意点について解説します。(連載の目次はこちら

 ソースの試験は,DVDレコーダーやケーブルテレビのセットトップ・ボックスなどを開発するメーカーで実施することになります。アイ・ダイヤグラム試験など,多くの機器開発でも行われているような基本的な計測を行います。ただし,ジッタなど特性や試験項目を表す用語の中には,HDMI特有の定義をしているものがあります。CTSに合った計測を行うためには,定義を正確に理解しておく必要があります。

†アイ・ダイヤグラム試験=アイ・パターン試験とも呼ぶ信号の劣化を直感的に評価できる試験。オシロスコープの表示データ信号を多数重ね書き表示すると,その波形は人間の目(アイ)に似た形になります。ところが信号に振幅や遅延の歪みがあるとアイの開きが小さくなり,信号が劣化していることが一目で分かります。

Ver.1.2までとVer.1.3以降では機材が異なる

 ソースを対象にした試験に使用する計測システムは,オシロスコープを中心にして構成します。オシロスコープに要求される性能は表5の通りです。信号のビット・レートの違いによって,2種類を規定しています。HDMIのVer.1.2までとVer.1.3以降で大きく変わります。

 デジタル信号では,「1」と「0」が各ビット交互に現れるときに電圧の変動が最も頻繁に起こります。この波形は周波数がビット・レートの半分になる矩形(くけい)波です。正確な計測を行うためには,この矩形波を忠実に再現する必要があります。矩形波にはすべての奇数次の高調波が含まれます。高調波の成分は次数に反比例して小さくなります。目安として,5次高調波まで取得できる帯域幅があれば計測には支障がないと思われます。

†高調波=周波数成分を持つ波に対して,その整数倍の周波数成分のこと。基本波のn倍の周波数を持つ波を第n次高調波と呼びます。

表5 ソースの試験に向けたオシロスコープの要求仕様
[画像のクリックで拡大表示]

 5次高調波の周波数はビット・レートの2.5倍です。HDMI Ver.1.3のビット・レートは最高3.4Gビット/秒ですので,上記の目安としての帯域幅は3.4×2.5=8.5(GHz)となり,8GHz帯域のオシロスコープを用意する必要があります。

 CTSには明記されていませんが,帯域幅と関連して計測可能な最短の立ち上がり時間も重要です。HDMIの仕様では,信号の立ち上がり時間が75ps以下と規定されています。このため,CTSに記載された推奨オシロスコープの立ち上がり時間である47psは妥当です。

 このほかに,オシロスコープの性能として重視する必要がある仕様は,波形メモリ長です。デジタル・オシロスコープでは,メモリ長を記録できる最大のサンプル数で表現します。HDMIの規格認証試験に向けたアイ・ダイヤグラムやジッタの計測では,信号波形をメモリに取り込んでおいてソフトウエア処理によって計測します。正しい計測には表5に示したように,16Mポイント以上のメモリが必要です。足りないと突発的に起こり得る不具合を観測することができません。

計測に使用するプローブとフィクスチャ
図3 計測に使用するプローブとフィクスチャ

 計測システム全体の性能を考慮すると,オシロスコープの帯域幅に見合った性能のテスト・ポイント・アダプタ(フィクスチャ)や,プローブ,接続ケーブルなどの性能に気を配る必要があります(図3)。これらの各要素は,高周波でも誘電体損失の小さなテフロンなどの素材を使用し,実用上支障がない範囲でなるべく経路長を短くしたものを選んだ方がよいでしょう。個々の帯域幅が十分でも,接続部分でインピーダンスが変化すると信号の反射が発生して,正確な波形をオシロスコープに伝送できなくなります。