高速データ転送が民生機器に普通に使われるようになりました。消費者は機器をつなげば,当たり前のようにデータをやり取りできると思っています。メーカーが違っても機器の種類が違っても確実に接続するためには,厳格な基準と明確な計測手法での認証試験を実施する必要があります。ここでは民生機器向けの代表技術であるHDMIを通じて,試験の狙いに応じた対策の考え方と実際に行う計測の基礎を学びます。(連載の目次はこちら

HDMI 対応ケーブルの例と認証ロゴ
図1 HDMI 対応ケーブルの例と認証ロゴ
HDMI 対応ケーブルの例と,規格認証試験に合格した製品に付けることのできるロゴ。

 HDMI(high-definition multimedia interface)の規格策定は,映像や音声をデジタル信号のまま機器間転送させるためのシンプルな企画として始まりました。その後,コンテンツ保護や簡易ネットワークなどの機能を徐々に加え,一般の家庭でも認知されるようになりました(図1)。

 インタフェース規格として成功を収めた理由として,規格策定を大手家電メーカーが主導したことや,ケーブル1本で簡単に接続できるという魅力が挙げられます。しかし,市場のHDMI対応製品同士の接続において問題がほとんど発生せず,信頼感があったことが普及の最大の要因と考えてもよいでしょう。

 HDMIは,前身の規格であるDVIから多くの技術を継承しています。そのDVIでは接続性が問題になった時期がありましたが,DVIはパソコン向けで多少の問題には対処できる利用者が多く,普及の妨げにはなりませんでした。これに対しHDMIは一般家庭向けの家電製品がターゲットであり,接続性の問題を起こさないことが規格策定時の最大の目標でした。そのため,規格認証試験を厳格に行うことに重点が置かれました。

†DVI(digital visual interface)=非圧縮のデジタル伝送方式を採用した,パソコンとディスプレイ間のインタフェース。現在広く利用されている規格です。UXGAまでの解像度を想定して165MHzの帯域に対応しています。Digital Display Working Groupというコンソーシアムによって,1999年に制定されました。DVIで採用された米Silicon Image社のTMDS(transition minimized differential signaling)符号などの技術の多くはHDMIにも継承されています。

 本稿ではHDMIの規格認証試験と,これに関する計測技術について解説します(表1)。数Gビット/秒もの高速データ転送を行う民生機器の規格認証試験の考え方と,これに応じた試験対策,実際に計測する上での注意事項について詳しく説明します。

表1 HDMI の規格認証試験での計測面での課題と対策
HDMI の規格認証試験における計測面での課題と主な対策のうち,他の高速データ転送技術と比べて特徴的な項目を挙げました。
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推奨機材や判定基準を明確に定義

 HDMIは民生機器向けの高速データ転送技術です。認証試験への対応を考える上でのカギは,民生機器向けであることが,他の高速データ転送技術に対する認証手順や基準の違いとなってどのように反映されているのかを理解することです。

 DVIでも認証試験を規定する仕様書が作られていました。しかし,それは開発指針として示されたものでした。強制力を持たず,試験手法も現実的ではありませんでした。

 これに対し,HDMIでは認証試験を強制にするとともに,実際に構築できる試験環境を具体的に定義しました。加えて,認証試験を行う機関として「ATC(Authorized Test Center)」を設置しました。また規格の維持・管理,ライセンス業務を扱う事務局を組織し,しっかりした運用ができる体制にしています。