前回は,高速データ伝送の標準化の方向性と認証試験や計測技術への影響を示しました。今回は,扱う信号の高速化による計測面での課題を解説します。(連載の目次はこちら

 高速データ伝送技術は,扱う信号が高速化するにつれてさまざまな計測面での課題を生み出しています。ここでは,高速化による計測面での課題を解説します。

機材への投資が増大

 最近の高速データ伝送技術で用いる信号線は,計測に解析機能を持った高速・高機能のオシロスコープと,信号発生器が必要になっています。非常に高性能な機材が必要なため,数千万円の初期投資が必要になる場合があります。

 例えば,HDMIの試験では信号発生器に2000万~4000万円,オシロスコープと信号を計測対象から読み出すプローブで2000万円,このほか計測条件を整えるためのケーブル・エミュレータや高速なパルス信号の反射を利用してインピーダンスを計測するためのTDR(time domain reflectometer)向け計測器などで総額8000万円の投資が必要になります。

 維持費も高額です。プローブと計測器をつなぐ20万~30万円もする治具は,約10回使っただけで交換しなければならない消耗品です。頻繁に計測を行う場合,壊れたり消耗による誤差の拡大が起きたりすることがあります。また,年1回というように定期的に必要な計測器の校正は最低でも1週間,計測器メーカーの海外本社に送ると1カ月かかる場合があります。その間,レンタル機器を使うことになりますが,レンタル代が掛かります。機器メーカーが思ってもみなかった費用がかさむことがあります。

 こうした,高額な計測器を購入するときには,事前に計測器メーカー主催のセミナーや展示会のデモを通じて,必然性や投資効果を確認しておく必要があります。また購入が未定の場合には,試験を請け負う会社に有償で評価を委託する方法も有効です。機材をレンタルする場合には,賃貸料以外に保険料,輸送料,保証金なども必要です。

計測ソフトとの付き合い方が開発のカギ

 従来は,信号の計測や計測結果から不具合の発生要因を見定めるためのノウハウは,技術者個々の経験に依存していました。しかし現在では,計測器メーカーが規格に準拠して販売するソフトウエアを購入し,計測器メーカーの技術支援を受けることで,かなり代替可能になってきています。

 計測器の重要な性能は,分解能(精度)と計測帯域(計測可能な範囲),そして再現性です。これらを備えた高性能な計測器を使用することで,正確な値を得ることが可能になります。しかし,得られた値を正しく判断しない限り,計測や試験の意味がなくなってしまいます。規格認証試験のような規格に基づいた試験では,最新の規格と突き合わせて正しい判断を行うことが重要です。