前回は,エンジニアが把握すべき新世代アナログの三つの技術のうち「時間領域」について解説しました。今回は,「MOS」について取り上げます。(連載の目次はこちら

 1990年代以降,アナログ回路をMOSトランジスタで構成することが多くなってきた。この際,従来用いてきたバイポーラ・トランジスタとはかなり性質が違っていることを認識する必要がある。違いを理解しないと,前述のように回路の性能は極めて悪いものになる。

 MOSトランジスタはバイポーラと同様に3端子デバイスとしてとらえることができる(図3)。正確には,MOSはボディ端子を有しておりゲートと同様の作用があるが,通常この端子は固定されている。ソース・ボディ間電圧が生じるとしきい値電圧Vthの変動や相互コンダクタンスgmが変動するが,あまり大きな影響は生じない。

図3 バイポーラ・トランジスタとMOSトランジスタの相互コンダクタンスgm

 3端子デバイスとしてのバイポーラ・トランジスタとMOSトランジスタの差は,小信号等価回路ではバイポーラ・トランジスタは入力端であるベースに電流が流れ,MOSトランジスタの入力端であるゲートには電流が流れない,というぐらいの差でしかない。あとは,バイポーラのgmは図3(a)のように,コレクタ電流Icと温度Tで決まるのに対し,MOSではドレイン電流Idsと有効ゲート電圧Veffで決まり,Veffはドレイン電流とW/L(ゲート幅/ゲート長)というジオメトリーによって決まる点が異なるぐらいだ。

 従って,バイポーラ回路の大半は,MOSトランジスタに置き換えることが可能である。バイポーラ・トランジスタによるアナログ回路に慣れた設計者は,MOSトランジスタを3端子デバイスとして扱い,バイポーラからの単純な置き換えにより設計する場合が多い。ただし,この置き換えには以下の課題がある。これらの課題を知らないと,MOSの欠点が露骨に現れてしまい,消費電力や雑音の増大を招く。