デジタルでアナログを支援する
ここまでに述べた不安定さや精度の低下は,アナログ技術を難しくしている主因と言えるでしょう。この問題を解消するためには,アナログ的な動作の原理をきちんと習得しておくことも必要ですが,今後はデジタル技術をうまく活用する方法が重要です。
図6は,アナログ回路のバラつきの補正にデジタル技術を用いた例です。アナログ・デジタル混載SoC(system on a chip)では,アナログ回路の一発動作が求められます。SoCをタイムリーに市場に出さないと,大きなマーケットを失ってしまいます。
しかし,アナログは一度作ってみないと分からないところがあります。またプロセスの状態により特性が変動します。そこで対策として,不確定なところやバラつきが大きいところに対しては,前もってデジタルにより制御できる回路を入れておくのがコツです。図6の例では,DVDの信号処理における可変利得アンプの増幅度やオフセット調整,フィルタが,マイコンによって自動的に制御できるようになっています。従来のアナログICにおいてはマイコンを用いることはできませんでしたが,SoCはすべて強力なマイコンを持っていますから,わけのないことです。
図7は発振器の例です。VCO(voltage controlled oscillator)では発振周波数を制御するために電圧可変容量素子を用いていました。VCOはよく利用されますが,電圧によって容量が変化しやすいということは,同時に雑音に弱いということでもあります。そこで,電圧ではなくスイッチにより個数を切り替えて容量をデジタル的に変化させるDCO(digital controlled oscillator)にすれば,発振器の雑音を減らすことができます。
方式が多く最適解の見極めが困難
このほかにも,アナログ回路をややこしくしている問題があります。部品や設計方式の選択肢が多い,さらに仕様の項目が多くトレードオフの関係にあるものも多い,といったことです。
例えば,A-D変換器の方式はいろいろあります(図8)。精度と速度のグラフで見ると,大別しただけでも8種類の方式があり,部品の選択で迷うことがあります。自社でSoCを設計する企業において,どの方式のA-D変換器をチップ上に搭載するかを選択するときに,方式ごとに最適な製造プロセスが異なり悩むことがあります。例えば,パイプライン方式や逐次比較方式では高精度の容量が必要になりますが,ほかの方式では要りません。製造プロセスを開発する部門から,高精度の容量が必要なのかどうかを尋ねられ,判断に迷うことがあります。
技術者によって方式の好みが違ったり,設計ルールによって適する方式が変わってきたりするのも,問題を複雑にします。自分が手掛けたものは安心できるが,ほかの方式ではどんな問題が起こるのか分からず恐い,という気持ちがアナログ回路では出てくるものです。どれを選ぶのか,人それぞれの得意なやり方,いわば“流派”があります。
この問題を解決するためには技術の動向を見極め,方式間のさまざまな比較を常々行っておくことが必要です。将来を見越して開発のロードマップを作っておき,行き当たりばったりの対応にならないようにしておくしかありません。