デジタル設計者は「アナログは分からない」と避け,アナログ設計者は「デジタル設計者は苦労を理解できない」と不満を漏らす――。こういう現場は少なくありません。本来,アナログ技術者とデジタル技術者が相互理解を進め,両方の技術をうまく使いこなさなければなりません。ここでは,アナログ技術が難しい理由と,アナログ回路にデジタル技術をうまく利用する考え方について解説します。(連載の目次はこちら

 アナログ回路技術は難しいので,一人前の技術者になるには時間がかかる,といわれています。容易ではないのは確かで,やみくもに勉強しても実力はなかなかアップしません。アナログの何が難しいのかを把握しておけば進むべき道が見えやすくなり,壁に当たったときに乗り越える手立てを講じやすくなります。

 そうはいっても,アナログの難しさが明確になっているわけではありません。そこで,ここではアナログが難しくなる原因を考えてみます(図1)。言われてみれば当たり前のように思うでしょうが,若手はもちろん,ベテランでも回路技術者の多くは,なかなか認識できていないようです。自ら認識することで,アナログ技術への理解が深まり,着実に実力を高める手掛かりになるはずです。

図1 アナログ回路技術の難しさ
現場の技術者が直面する問題をまとめました。

アナログ回路が不安定なのは宿命

 アナログ回路が難しくなる最大の理由は,回路を不安定な状態で動作させるからです。分かりやすくするために,デジタル回路と比較しながら考えてみましょう。図2に示す回路はnMOSとpMOSを接続した,最も簡単なCMOS回路です。これはデジタル回路のCMOSインバータになりますし,アナログ回路のCMOS増幅器として利用することもできます。回路の構成は同じですが,インバータと増幅器では,トランジスタの動作領域が異なります。

図2 アナログ回路は不安定な領域で動かす
アナログ回路は感度を高めるために変化が大きい不安定な領域で動かします。これに対し,デジタル回路は変化が少ない安定な領域で動かします。

 インバータでは,ゲートに電源電圧VDDもしくは接地電圧VSS(0V)を印加します。入力がVDDのときnMOSはオン,pMOSはオフとなり出力電圧は0Vになります。逆に入力が0VのときnMOSはオフ,pMOSはオンとなり,出力電圧はVDDになります。ここで入力信号が多少変化しても,出力電圧は変わりません。従って,極めて安定性が高くなります。

 これに対し増幅器では,入力電圧がVDD/2近傍で,出力電圧が最も変化するところを用います。入力信号に対して出力が大きく変化すれば,利得が高くなるからです。入力信号電圧がわずかでもずれてしまうと,出力電圧はVDDか0Vに張り付いてしまい,所望の増幅作用が得られません。このようにアナログ回路は本質的に不安定な要素を持っています。

 これは,わざと機体を不安定にして,交戦時に高い機動性を発揮できるようにした戦闘機の考え方と似ています(3ページ目の「不安定な高性能戦闘機をデジタル制御」参照)。機体が不安定でも,コンピュータ制御で高い運動性と安定性を両立できるようにしています。アナログ回路でも同様に,高感度と安定性を両立できるようにすることが鍵になります。