通信技術などのICTと医療を融合させて実現する「遠隔医療」。医療現場に横たわるさまざまな課題を解決する一つの手段としての期待も大きい。

この遠隔医療は今、どのような段階にあり、今後、どう展開されていくのか。また、そこに求められるシステムの要件や課題とはいかなるものなのか――。日本、そしてアジアの遠隔医療をリードする九州大学病院 アジア遠隔医療開発センターでセンター長を務める清水周次氏と、システム構築などを担う九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンターの安徳恭彰氏に聞いた。

(聞き手は小谷 卓也)

九州大学病院 アジア遠隔医療開発センター センター長の清水周次氏(左)と、九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンターの安徳恭彰氏(右)(写真:林田大輔、以下同)
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――アジア遠隔医療開発センターのセンター長という視点から、アジアの遠隔医療は現在、どのようなフェーズにあると見ていますか。

清水氏 まず遠隔医療は大きく2つに分かれます。1つは、Doctor to Doctor(D to D)。いわゆる医師同士の遠隔教育です。もう1つは、Doctor to Patient(D to P)で、医師と患者が遠隔でつながること。我々が手掛けてきたのは、主に前者になります。

 その観点で現在のフェーズを整理するならば、第1~3ステップを終え、第4ステップに入っている段階と言えます。具体的には、第1ステップは医師が満足する画質を提供するシステムが登場した時点です。これは、2002年の日韓ワールドカップ(2002 FIFAワールドカップ)の年に釜山と福岡が光ファイバーで結ばれたことで実現しました。それまでは細い回線しかなく、画像はガタガタで、遠隔医療で手術の指導するのはとても無理な状況でした。

九州大学病院 アジア遠隔医療開発センター センター長の清水周次氏。同大学病院 光学医療診療部 臨床・腫瘍外科学(第一外科) 准教授も努める。
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 第2ステップは、ニーズの高まりです。第1ステップで技術的な部分をクリアしても、それを使いたいというニーズがなければ前に進みません。そこに、うまくはまったのが内視鏡手術でした。当時、内視鏡手術が外科医の中でどんどんはやってきていて、それを学びたいという人がたくさんいたわけです。日本と韓国の間で、遠隔医療を利用した内視鏡手術の教育が活発になりました。

 第3ステップは、地域的な広がりです。第1ステップで日本と韓国にできたのと同様の水準のネットワークが、中国や台湾、シンガポール、オーストラリアなど他地域にも広がっていきました。同時に、内視鏡だけではなく、エコーをしたい、呼吸器をしたい、といったコンテンツ的な広がりがあったのも、この第3ステップです。

 そして、第4ステップです。第3ステップまでは、DVTS(digital video transport system、高速デジタルビデオ画像通信システム)という、いわば大規模な学術ネットワークを利用したものだったために、そのネットワークにつながるのは各国の一部の大学病院にとどまっていたのです。これに対して、2010年代に入ると、小さなネットワークでも遠隔医療に利用できる技術が進歩してきました。これにより、一部の大学病院だけでなく、ニーズがある一般の病院や地方の病院にも遠隔医療が広がりつつあります。これが、現在の第4ステップの状況です。

 遠隔医療が本当の意味でいろいろなところにまで広がっていったら、アジアの医療教育の革命になると私は考えています。