◎本田技術研究所スマートモビリティ開発室室長 上席研究員の山藤靖之氏。超小型EVなや1人乗りの電動1輪車「UNI-CUB(ユニカブ)」など、新ジャンルのパーソナル・モビリティー開発に力を入れている。
◎本田技術研究所スマートモビリティ開発室室長 上席研究員の山藤靖之氏。超小型EVなや1人乗りの電動1輪車「UNI-CUB(ユニカブ)」など、新ジャンルのパーソナル・モビリティー開発に力を入れている。
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 ホンダが、超小型電気自動車(EV)を使った社会実験に力を入れ始めた。満充電における航続距離(1充電航続距離)が80kmで、2人乗りの超小型EV「MC-β」を開発し、熊本県や沖縄県宮古島市、さいたま市で実証実験を開始。それぞれの地域に合わせた超小型EVの使い方やニーズを探る。「日経ものづくり」と中部産業連盟が共催するセミナー「国内大手7社が語る 自動車産業の針路2015 ─Accelerate the Future!─」〔2014年11月27日(木)、28日(金)〕に登壇する本田技術研究所スマートモビリティ開発室室長 上席研究員の山藤靖之氏に超小型EV開発の狙いについて聞いた。(聞き手は近岡 裕=日経ものづくり副編集長)


──ハイブリッド車(HEV)や軽自動車が売れているホンダが今、超小型EVを開発する理由は何でしょうか。

山藤氏::これまでもホンダは、いろいろなコンセプトの超小型モビリティーを開発してきました。小型EVの位置づけについては、いろいろな人がいろいろなことを言いますが、最も大きいのは「都市型コミュニティー」という解釈でしょう。

 しかし、よくよく考えてみると、都市部は公共交通機関が十分に整備されており、クルマがなくても生活できるという状況になりつつあります。その上、日本では人口が減っていく中で、都市部に人口が集中するという流れが見られます。では、地方に住む人はどうなるのでしょうか。人口が減れば売り上げ(収入)下がるため、公共交通機関の運営が制限されます。税金で補おうにも、税収が下がるので限界があるはずです。

 そう考えると、地方には今後、既存の軽自動車などとは異なる価値や利便性を備えたパーソナル・モビリティーを提供する必要があります。その1つの手段が、超小型EVというわけです。

 ホンダが見ている日本社会の変化の1つは、今後、公共交通機関やガソリンスタンドなど既存のインフラを維持できなくなる地域が現れる可能性があるということです。現に、地方ではガソリンスタンドが次々となくなっており、複数のエリアに1つしかないという地域が増えています。最寄りのガソリンスタンドまで10kmも走らなければならないことも珍しくありません。高齢化が進む中で、移動手段に対する考え方も、「最寄りの駅まではクルマを使うけれど、長距離は鉄道を利用する」という考え方が普通になるかもしれません。

 つまり、なぜ、ホンダが超小型EVを開発するかと言えば、生活シーンが変わったとしても対応できように、いろいろなパーソナル・モビリティーを用意しておきたいからです。だから、ホンダは原動機付き自転車から2輪車、軽自動車を含むエンジン車、HEV、EV、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、そして燃料電池車(FCV)まで幅広く開発しているのです。

 先の地方の来るべき変化に対しては、PHEVという選択肢も考えられます。しかし、エネルギーをあまり消費せずにきびきび走り、その上、価格も手頃であれば、超小型EVのニーズはより高いはずです。


──既存のガソリン車とは異なる超小型EVの最大の違いは省エネでしょうか。

山藤氏::ガソリンを給油して走るクルマとは異なる、プラグイン車両(外部から電力を供給するクルマ)の特徴は可能性としての「家産家消」です。「地産地消」よりも小さな単位で、家で電力をつくり、家庭用の超小型EVで消費するという考えです。超小型EVの社会実験を行っている沖縄県宮古島市では、ガレージの屋根に設置したソーラーパネルで発電し、超小型EVに電力を供給して走ります。石油は一切、使いません。

 今、日本では原子力発電所が止まっており、日本の二酸化炭素の排出量は米国より多くなっています。その上、今後は人口の減少で、電力供給のインフラである架線をコスト的に維持することが難しくなっていきます。そう考えると、電気料金はどんどん上がっていく可能性も考えられます。こうした場合に、少ない電力で動ける超小型EVのメリットがどれくらいあるかを、宮古島市で実証実験しているのです。