――ある意味“医療のど真ん中”にいた山本社長ご自身が、予防分野といった“外側”に関心を持つようになったキッカケは何ですか。

 内科や外科をはじめとする医療従事者の多くは、患者が亡くなってしまう経験を一定以上してきています。私は循環器専門で救急部にもいました。そこでは、心臓発作とかで運び込まれてくる患者の一定の割合は、まったく病院に行ったことがない人だったりするわけです。40代の男性で、妻が子供連れでやって来て、困って泣いていて、治療するけど亡くなってしまうというケースが珍しくありません。

 でも実際には、ものすごい肥満で、ずっと糖尿病と言われていたみたいなことが普通にあります。大なり小なりこうしたケースを何度か経験すると、「何でこうなっちゃうんだよ」という思いは医療従事者の多くが持っているはずです。

 ただし、医療職は医療職で多忙な中で、自分の半径10mぐらいの中の正義と倫理の中で仕事に取り組まざるを得ない部分があります。それ自体が良い、悪いという話ではなく、そういう世界です。それに対して、このままじゃ医療はまずいし、誰がこの医療を切り盛りしていくんだろうと勝手に心配していたわけです。それで、ビジネススクールで学ぶことになり、いろいろな出会いがあって今に至るわけです。

 ビジネススクールに行って良く分かったのは、病院の中で異端児的に何かをやっていてもダメだということです。1つの病院が変わったところで医療全体は変わらないですし、病院という狭い範囲のロジックで動いている以上、結局一緒じゃないかと思います。ですから私は今、臨床にはまったくかかわらず、退路を断って起業したわけです。やるんだったらそこまで振り切らないとダメだと考えました。