———トレックス・セミコンダクターの創業の経緯と、アナログ半導体市場に参入した理由を教えてほしい。

(写真:新関雅士)

藤阪 トレックス・セミコンダクターとしての創業は1995年だが、前身の会社を含めると1989年にまで遡る。現在、岡山県にあるフェニテックセミコンダクターはかつてシンコー電器と名乗っていた。そのシンコー電器が1989年に100%子会社として設立したのがトレックス・セミコンダクターである。

 シンコー電器は残念ながら、1992年に会社更生法を申請した。一方、トレックス・セミコンダクターは従来通り活動していたのだが、シンコー電器が1995年に会社更生のメドが立ったため、1995年3月に一度清算した。そして、1995年3月31日に再始動させたのが新生「トレックス・セミコンダクター」である。この新生トレックス・セミコンダクターが現在まで続いている。従って、会社の履歴書上は、1995年3月の創業である。

 シンコー電器は、半導体チップの製造請負ビジネスに取り組んでいた。しかし1990年を過ぎたあたりから、自前の製品を持ちたいという意見が出てきた。そこでトレックス・セミコンダクターにおいて、電源ICのビジネスを始めたのがアナログ半導体市場に参入したきっかけだ。

———最初に市場に投入した製品は、どのようなものか。

藤阪 ソニーが1992年に「スタミナウォークマン」を製品化した。充電式電池(バッテリー)1本で7時間も駆動できるという製品である。これに当社の電源ICが採用された。

 ソニーは当時、この機種に搭載する電源ICの開発を依頼する半導体メーカーを探していた。しかし、当時の半導体業界は非常に好調。ウォークマンといえども出荷台数はまだそれほど多くない。そのため、本気で取り組もうとする半導体メーカーはほとんどなかった。それに当社は飛びついた。

———なぜ、飛び付いた結果、どうだったのか。

藤阪 今後、バッテリーで動く電子機器が増えると想定こともあり、飛びついた。しかし、実際に開発に着手すると、ソニーからは低消費電力化と小型化を非常に強く求められた。カセットテープとほぼ同じ大きさにすべての機能を収める必要があったからだ。容積の制約からバッテリーは1本しか入らない。その1本のエネルギーをいかに長持ちさせるかが開発のポイントだった。この開発から、バッテリー駆動機器では、低消費電力化と小型化が重要であることを改めて痛感した。それ以降、この2つが当社の強みになっている。