試作した有機薄膜太陽電池(写真:理化学研究所の提供)
試作した有機薄膜太陽電池(写真:理化学研究所の提供)
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 ポスターのように太陽電池を刷って作る――。このようなことを実現できる、塗布型と呼ばれる有機薄膜太陽電池の研究開発に、理化学研究所 創発分子機能研究グループは取り組んでいる(前編)。塗布型の有機薄膜太陽電池は、光を電力に変換する効率を高めるのが難しい。同グループは分子の並び(配向)を制御できる半導体ポリマーを開発し、この問題解決に挑む。同グループの上級研究員である尾坂格氏へのインタビューの後編では、開発した半導体ポリマーの特徴や、有機薄膜太陽電池の世界的な開発状況などを聞いた。(聞き手は、大久保 聡=日経BP半導体リサーチ、野澤哲生=日経エレクトロニクス)

――半導体ポリマーを有機薄膜太陽電池に使う利点は?

尾坂氏 利点はいくつかある。まず、印刷など、溶液を使った塗布型の素子作製が容易なので製造工程の簡略化が可能なことがある。低分子型の有機半導体でも塗布型の製造は可能だが、半導体ポリマーの方が塗布型の適用が容易だ。そして有機薄膜太陽電池の耐熱性は、半導体ポリマーの方が高い。

 さらに、有機薄膜太陽電池内で光を浴びることで発生するキャリアは、半導体ポリマーの方が電極に取り出しやすい。我々が研究開発する有機薄膜太陽電池は、「バルクヘテロジャンクション」と呼ばれる構造である。開発した半導体ポリマーをp型半導体に、フラーレン系材料をn型半導体に使い、それらが入り組んだ構造になっている。p型半導体に使う材料の分子が大きいほどキャリアが流れるネットワークが形成されやすく、キャリアが閉じ込められにくくなるので変換効率を高めやすい。

――半導体ポリマーの配向を制御できることは偶然の発見だったのか。

尾坂氏 有機薄膜太陽電池に向けて半導体ポリマーを基板に対して横向きにして積み重ねて配置することを「フェイスオン」、逆に有機トランジスタに向けて半導体ポリマーを縦向きにして横方向に連ねて配置することを「エッジオン」と呼んでいる(理化学研究所の発表資料)。今ではフェイスオンとエッジオンを狙って作り分けることができるが、当初は試行錯誤で進めていた。

 だが、闇雲に材料開発してきたわけではない。過去に半導体ポリマーのいくつかの材料系で研究を進める中で、半導体ポリマーの配向について「こうやったら、配向はこうなる」といった法則性が見えていた。数値計算で導き出したのではなく、経験によるものだ。フェイスオンにするためにアルキル基を導入したのも、こうした経験からだ。

――ナフトジチオフェンとナフトビスチアジアゾールを組み合わせた半導体ポリマーを結晶化すると分子はエッジオンで並び、この分子内のナフトジチオフェンにアルキル基を2本導入するとフェイスオンになる。なぜ、アルキル基を2本導入するとフェイスオンになるのか。

尾坂氏 結晶性が高い半導体ポリマーほど、エッジオンになりやすい。これは半導体ポリマーにとって異質な基板との接触を極力排除し、同じ分子同士で接触しようとする傾向があるからと考えている。アルキル基を導入すると、分子が結晶化しようとする動きを阻害する方向に働く。

 我々は、アルキル基によって分子間の相互作用が弱まり、基板を避けようとする力も弱くなるとみている。半導体ポリマーに導入するアルキル基の位置や密度をうまく選ぶと、結晶性の高さをさほど阻害せずに、配向を変えられる。

トランジスタに向くエッジオン配向(左)と、太陽電池に向くフェイスオン配向(右) (図:理化学研究所の発表資料から抜粋)
トランジスタに向くエッジオン配向(左)と、太陽電池に向くフェイスオン配向(右) (図:理化学研究所の発表資料から抜粋)
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