「nano tech 2014」に出展した電子タグ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて、東京大学 竹谷氏の研究グループが企業と協力して開発した。
「nano tech 2014」に出展した電子タグ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて、東京大学 竹谷氏の研究グループが企業と協力して開発した。
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 有機半導体膜を単結晶化することで、従来考えられてきたよりも高い移動度を実現できることを示した東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 教授 竹谷純一氏。同氏によれば、高い移動度を得たことで有機半導体を用いた回路で高速スイッチングが可能になり、センサーネットワークへの適用が視野に入ったという(前編)。後編では、高い移動度を示す有機半導体のさらなる応用先や、同氏が研究する単結晶有機半導体材料に行き着いた経緯などを聞いた。(聞き手は、大久保 聡=日経BP半導体リサーチ、野澤哲生=日経エレクトロニクス)

――移動度が10cm2/Vsに達すると、他にも用途がありそうだ。

竹谷氏 低温多結晶SiやInGaZnOに近い移動度なので、これらの材料で得ている回路を単結晶有機半導体で作ることは可能だ。例えば、高精細ディスプレイである。

 有機半導体によるディスプレイの特徴として、フレキシブル化が容易ということがある。では、フレキシブル化したことで、ディスプレイの付加価値は上がるのであろうか。現在、ディスプレイの高精細化が進んでおり、消費者はきれいな画像に慣れている。有機半導体の移動度が遅いと高精細化への対応が難しく、“フレキシブルだが、これまでよりも画質は劣る”ディスプレイになってしまう。これでは商品力が弱い。それに対し、移動度が10cm2/Vsあると、フレキシブルと画質の両立が可能である。

 また、ディスプレイの画面周囲に配置しているドライバ回路などに単結晶有機半導体を適用できるのも利点だ。有機半導体をディスプレイに適用させるとき、移動度が低いと適用先は各画素に配置するTFT程度にとどまるだろう。各TFTを駆動・制御するドライバICは別途用意し、ディスプレイの周囲に実装することになる。それでは、有機半導体の特徴であるフレキシブルを生かし切れない。別途部品として実装するドライバICが妨げになり、ディスプレイ全体を丸めるといったことができないからだ。だが、移動度が高いとドライバ回路も形成可能かつ同一基板上に集積できるので、ディスプレイ全体を丸めることが可能だ。

 移動度の高さを、生産性の向上に使う考えもある。例えば、移動度が1cm2/Vs の有機半導体でゲート長1μmのTFTと同等の性能を、10cm2/Vsの有機半導体ではゲート長10μmでも得られる。リソグラフィ技術を使った加工ではなく、印刷による加工が視野に入るので、加工が楽になるといえる。