経済産業省が2013年10月から開催してきた「新ものづくり研究会」。2014年2月下旬には報告書がまとまった。同研究会では、3Dプリンター(Additive Manufacturing装置)をはじめとした付加製造技術の本質を探ると同時に、今後の日本のものづくりが目指すべき姿について考察した。同研究会の座長を務めた東京大学大学院経済学研究科教授の新宅純二郎氏に、3Dプリンターによって変わってくる日本のものづくりの未来を聞いた。(聞き手は大石基之=日経ものづくり編集長)

東京大学大学院経済学研究科教授・ものづくり経営研究センター 研究ディレクター 新宅純二郎氏

――新宅先生が座長を務められた新ものづくり研究会の報告書が2014年2月にまとまりました。

 新ものづくり研究会では、3Dプリンターをきっかけにものづくりの全体像がどのように変わっていくのかを見えるようにしたいという話をしていました。3Dプリンターは、狭い意味では金型を使った成形法を置き換えるとか新しいビジネスが生まれるとか言われていますが、その本質は、ものづくりの道具立ての中に新しく加わった重要なツールの1つということだと思います。

 今回、報告書をまとめるに当たっては、既に3Dプリンターを使っているところ、具体的には医療系メーカーや加工専業メーカー、自動車エンジン試作メーカーなどを自分たちの足で回り、どういう使い方をしているのか、どういう問題があるのかを聞いてきました。

――そのようなところを回られて、3Dプリンターに対する印象が訪問前後で変わった部分はありましたか。

 訪問前から多少分かっていましたが、実際に回りながら感じたのは、現在使われている3Dプリンターは、樹脂系、金属系、砂型系を問わず、ほとんどが欧米製であるという点でした。そしてこれらの装置は、「最近だいぶよくなった」と言われながらも、まだまだ問題があるようです。

 1つは、材料選択の柔軟性がない点。基本的にはメーカー保証の材料でなければ使えません。もう1つは、不具合や故障が発生した際のエンジニアリングサービスが悪い点です。実際、まだこなれていない装置だから、しょっちゅう故障したり止まったりするらしいんですよ。そのときに、簡単なサービスはできるけれど、ちょっと本格的なサービスが必要になると本国から技術者を呼んでこないと対応できない。すると、装置はしばらく止まったままという状態になってしまいます。

――海外製の3Dプリンターは、装置として見たときにはどうなのでしょうか。

 現在、米国系の2社、すなわち3D Systems社とStratasys社が高いシェアを持っています。だからといって、日本製が入る余地がないかと聞くと、「(海外製は)そんなすごい装置じゃない。日本のメーカーが造った方がよほど気の利いた装置ができると思いますよ」と返ってくる。そこで、新ものづくり研究会では最初の施策として、「装置・ソフト・材料一体の基盤技術開発」を提唱しました。要は、日本製の装置をちゃんと開発してみようということです。3Dプリンターに関する基本特許はだいぶ切れてきていますし、まだできるはずだ、と。

――技術開発のポイントはどこでしょか。

 装置本体だけではなく、造形材料と、それらを使うプロセスやレシピを加えた3点セットで考える点です。日本の技術力をもってすれば、装置的には勝るものを造れるかもしれませんが、それだけでは勝ち切れません。材料とレシピが不可欠です。材料は、日本には優秀なメーカーがたくさんありますからまだいいのですが、レシピについてはいかせんこれまでの蓄積が少なすぎます。

 しかもレシピというのは微妙なもので、装置の中に完全に埋め込まれてしまうと、その装置を使えばどこで誰が造っても同じものができてしまう。しかしユーザーとしては、差異化したいところです。例えば工作機械なら、同じ機械を使っても、どの材料を、どの刃物で、どのようなプロセスで加工するかがノウハウになります。この加工ならA社、こっちの加工ならB社といった具合に。

 つまり技術開発においては、こうした差異化競争ができる余地を残さなければいけないのですが、現状はまだそこまで達していません。従って、まずはプラットフォームとなる基本パターンまでを共同で開発し、それ以降については各ユーザーが独自に進めていけばいいと考えています。