──開発は,どういう経緯を経たのか。

「ポケットカルテ」の画面例(図:北岡氏の資料から)
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北岡 まず1999年春に国立京都病院(現京都医療センター)で電子カルテシステムを稼働させた。スタートしてすぐに気が付いたのだが、国立京都病院は地域の高度な専門医療施設であり、地域の開業医などと連携しないと良いデータベースにならない。そのころ病院建物の建て替えにより、周辺住宅にテレビの受信障害が発生したため、病院側がコストを負担して当時の京都ケーブルコミュニケーションズ(みやびじょん)が病院の周囲にケーブルテレビを敷設した。このケーブル網を使い周囲の診療所などと接続すれば、地域に密着した形で一人の患者の診療履歴を蓄積した電子カルテができると考え、2000年にWeb版電子カルテのテストを始めた。

 ただし、このシステムは患者の個人情報保護という観点に立てば問題があった。極端だが、隣に住む医療関係者が情報を閲覧し、さらに外部に情報をもらしているかもしれない。その危険性に気が付いたので、個人情報保護法が全面的に施行された2005年にいったんシステムを閉じた。その後、受診者個人がデータを持つ形に作り直し、OECD勧告の自己情報コントロール権を満たす形にしたのがポケットカルテの仕組みである。2008年から稼働した。

──順調にスタートしたのか。

北岡 サービス当初は、4カ月で1万ユーザーを超えたが、その後は伸びなくなった。理由は簡単だった。病院が提供するのは紙に印刷した診療情報であり、転記入力が大変だったからだ。そこで、診療の領収書にQRコードをつけて読み取ることで診療データを入力できるようにしようと考えた。しかしPOSシステムの改修を病院に実行してもらうためには、診療データを得ること以上の利点を受診者に提供し、病院選びの基準になるくらいの位置付けにする必要があった。

 そこで注目したのが医療費控除の仕組みである。世帯の医療費が10万円を超えると、超えた分について世帯主の税率で還付が受けられる。総務省の2007年のデータによると、2人以上の世帯では保険診療分だけで平均10万円を超えている。対象者は非常に多い。

電子版お薬手帳サービスのイメージ(図:北岡氏の資料から)
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 控除の対象となる医療費は、実は様々ある。例えばマスクは予防のためで対象ではないが、テーピングやサポーターは医療器具となる。そこで対象になる品目にJANコードを割り振った。医療機関や薬局、コンビニなどで受け取ったレシートのQRコードを読み取るとデータを取り込み、対象品目だけを抜き出す。そして確定申告の時期になると、ワンタッチで医療費控除明細を出力する仕組みを用意した。受診者に直接的なメリットがあり、調剤薬局チェーンがすぐに対応を開始した。これが、ポケットカルテの中で2010年1月にリリースした電子版お薬手帳である。

 効果は大きく、ポケットカルテの利用者は既に3万人を超えた。このほか、ポケットカルテの一部機能を使った透析手帳の正式版が今年に入りスタートしたり、兵庫県の丹波市では住民健診のデータがポケットカルテで管理されている。こうしたものも含めると利用者数は8万を大きく超えた。