島津製作所 田中最先端研究所などは2011年11月、質量分析システムを利用して血液1滴からの病気の超早期発見につなげる画期的基礎技術を開発したと発表した。同研究所の所長を務めるのは、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏である。同氏に、超早期発見などの次世代医療に向けたエレクトロニクス技術者への期待を聞いた。(聞き手は小谷 卓也)
――ノーベル賞の受賞にもつながった質量分析の技術が今、がんなどの超早期発見に貢献しようとしています。
私は大学卒業後、医療の分野に携わりたくて、医療機器を手掛けていた島津製作所に入社しました。しかし、その希望は見事に破れ、当時は医療とまったく関係がなかった質量分析の分野に関わることになった経緯があります。
めぐりめぐって、今では質量分析の技術が今後の医療に大いに役立とうとしているわけです。私自身としては、大学卒業時の希望が実現したと言えるのかもしれません。
質量分析が医療に貢献できるようになった背景の一つには、エレクトロニクス技術の進歩があります。質量分析は数十年前、元素や同位体といった無機物を計測する技術でした。その後、たんぱく質などの有機物を破壊せずにイオン化できるようになったことで、有機物の計測も可能になってきました。このイオン化した有機物を、いかに精度良く高感度に観察するのかという部分に、エレクトロニクス技術は大いに寄与しているのです。
――言い換えると、「エレクトロニクス技術で医療が変わる」とも言えそうですね。
エレクトロニクス技術は、十分に成長・成熟してきました。それを生かせば、これまでの医療をより高精度に、より高感度に、より高速に、かつ信頼性を高められる可能性があります。(エレクトロニクス技術を医療に)使わない手はありません。機は熟したと言えるでしょう。
ターゲットとなるキーワードは、やはり病気の超早期発見です。従来は気付かなかったり見えなかったりしたカラダの変化でも、エレクトロニクス技術の後押しによって、例えば血液や尿から調べられるようになりつつあります。こうした超早期発見が実現すれば、医療の姿は大きく変わります。生活習慣を改めたりちょっとした薬を飲んだりするだけで済む可能性も出てきますし、医療費削減の面でも意味があるでしょう。何より(患者)本人が助かるわけです。
さらに、遺伝子情報などをベースにした個別化医療(テーラーメイド医療)に注目が集まり始めています。個人に合わせた薬の処方など、個別化医療によって医療の効率をもっと高めていくことが求められています。