サイボウズのアプリケーション開発プラットフォーム「kintone」をベースに、「訪問きろく」など業務に必要なアプリケーションを多数自作したのが、「青竹のふし」というブランドで看護・福祉事業を展開する関西の青山敬三郎氏だ。大阪市を中心に、リハビリテーション事業、訪問看護事業、児童デイサービス事業を運営している。青山氏に、介護の現場とITの必要性について尋ねた。(※記事は、11月8日に都内で開催されたcybozu.com conference 2013での講演内容と、インタビューを合わせたものです)。

(聞き手は本間 康裕)

──サイボウズのアプリケーション開発プラットフォーム「kintone」をベースに、多くのアプリを開発したそうですが。

METI
関西の青山敬三郎氏

青山 アプリは380くらいあります。全部自分で作りました。会社の業務に関して、あらゆるものをアプリ化しました。例えば、会計アプリには、売り上げやキャッシュフローの管理だけでなく経理機能も付けました。レシート管理アプリというのもありまして、これはスマートフォンでレシートを撮影して、画像ベースで経理に請求できる仕組みです。

 訪問記録アプリは、2日くらいで作成しました。出先でも使いやすいように、メニューから選んで入力できるようなインターフェースにしています。児童デイサービスの記録アプリも、同様のユーザーインターフェースです。

──アプリケーションを開発しようと思った理由は?

青山 まずは、業務効率化です。例えば訪問看護のルーティン業務は、「朝礼→訪問→実施→記録→帰社→入力」とありますが、客先を訪問するという業務形態を考えると、毎日2回梅田の本社に集まる「朝礼」と「帰社」、手書きした患者のデータをキーボードでPCに入力し直す「記録」、これらは明らかにムダです。

 スマートフォンやPCで利用できるアプリを昨年7月に導入してからは、1年間で訪問看護の売り上げが50%増えています。従業員数はだいたい20人前後で変わっていないにもかかわらず、です。具体的には、以前は事務作業の担当者を6人置いていたのが、現在は1人で対応。残業は減少しました。働きやすい職場の実現にもつながるので、子育て中の母親のように短時間なら働ける人など、スタッフの雇用にもいい影響があると期待しています。

 もう一つは、社内での情報共有です。リアルタイムな情報共有、詳細な記録内容の共有を実現できます。データも手書きだと“紙くず”にしかなりません。訪問日時と訪問者、その他患者に関するデータや記録、伝言などを、アプリ上で共有できます。血圧や体温の推移などは、データをグラフ化して社内で見ることができます。

 最後が、チームワークの向上です。医師や行政サイド、患者や家族、学校などにアプリを使ってもらえれば、情報の共有が可能になります。現在顧客のうち約50人がアプリを利用しています。児童向けデイサービスの利用者に多いですね(利用料金は月額1000円程度)。行事やリハビリの様子を撮影した画像をアップしてコメントをやりとりしたり、「どんな遊びをしてあげればいいのか」「どう育てればいいのか」など、病院などでの短時間の診療では質問し切れなかった内容について相談を受けたり、コミュニケーションの向上に役立っています。

 この仕事は、顧客と長い間コミュニケーションとり続けることになりますから、情報を蓄積していくことがとても重要だと思っています。実は最近、こういうアプリがあるからデーサービスを利用したい、という新規の申込者が増えているんですよ。

──今後の展開について教えてください。

青山 ここで培ったノウハウを、他の事業所にも使ってもらいたいと考えています。訪問看護はもちろん、宅配業務が必要な事業者など、訪問業務を手がける企業全般ですね。東京はもちろん海外にも、kintoneで実現したノウハウを持って行けたらと考えています。目標は大きく「日本の福祉を世界一にする」ということ。ITを活用しなければ、まず実現は不可能でしょう。