ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は、2012年度より沖縄科学技術大学院大学(OIST)と沖創工、ソニーグループと共同で、太陽電池と蓄電池を備える分散電源を各住宅に設置し、住宅同士を自営線で結んで直流電力でやり取りする「オープンエネルギーシステム(OES)を実現する分散型DC電力制御に関する実証的研究」に取り組んでいる。2014年1月14~15日には、OISTにおいて「第1回オープンエネルギーシステム国際シンポジウム」を開催する予定だ。ソニーCSL ファウンダーでエグゼクティブ アドバイザーの所眞理雄氏にOESの取り組みについて聞いた。(聞き手は狩集 浩志)

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ソニーCSL ファウンダーの所眞理雄氏

――いつから分散型電源に取り組んでいるのか。

 ソニーCSLでは、実は2006年からこっそりと分散型電源の研究を始めていた。2010年には南アフリカで開催された「FIFA ワールドカップ」のサッカー大会に合わせて、アフリカの無電化地域で「エネルギーサーバーによるパブリックビューイング」を実施した。薄膜型の太陽電池でリチウムイオン二次電池を4時間ほど充電して、2時間の試合を視聴できるというものだ。2011年の東日本大震災以降は、これまでの高電圧で大型の送電線を必要とするトップダウン型ではなく、ボトムアップ型で電力網を作れないかと進めてきた。

 太陽電池とリチウムイオン二次電池の組み合わせは、ボトムアップ型の電力網の核になる。この組み合わせを住宅などに導入し、自給自足が可能な分散電源をまず確立できれば、余った電力があれば相互融通し、コミュニティーベースで自立できるようになる。さらに、コミュニティー間をつなげれば、これまでのトップダウン型の電力網を引くことなく、違った進化の道を遂げることができると考えている。

 幸いなことにOISTからエネルギー関連で共同プロジェクトを実施したいとの話があり、2011年からOESのフェーズ1となるプロジェクトを開始した。これは、OISTの歩道に設置された太陽光発電と小型の風力発電に、我々が開発した蓄電システム「エネルギーサーバー」を組み合わせて、OIST構内のトンネルギャラリーにあるプロジェクターの電力を賄うというものだ。風力発電の発電効率があまり良くなく苦労したが、プロジェクターの電力をすべて賄うことができている。現在はフェーズ2に移っている。

――フェーズ2ではどのような実証試験をしているのか。

 2012~2014年度にかけて、亜熱帯・島しょ型エネルギー基盤技術研究事業の採択・補助を受けて、太陽電池と蓄電池を備える分散電源をOIST内の教員住宅に設置し、住宅同士を自営線で結んで直流電力でやり取りする「オープンエネルギーシステム(OES)を実現する分散型DC電力制御に関する実証的研究」を始めている。現状は、OISTのキャンパス内の教員住宅9棟に2.7~4kW程度の太陽電池と3.6kWhの蓄電システムを導入した。このうち、3棟で電力融通の実証試験を開始している。現状は手動で切り替えている。だが、2014年度には、全部で20棟に太陽電池と蓄電システムを導入し、自動で融通できるようにする予定だ。

 住宅間は350Vの直流電力でやり取りしている。双方向のDC-DCコンバータの開発が非常に重要で、コンバータ自体は外部から調達しているが制御の部分をソニーCSLでやっている。2014年1月14~15日にOISTで開催される「第1回オープンエネルギーシステム国際シンポジウム」で見学会を実施する予定だ。

 シンポジウムでは、都市部や離島、電力供給が不安定な地域、さらには電力供給の無いへき地など、さまざまな社会的、地理的状況におけるOESの適用をめぐる課題を取り上げ、政府指導者やビジネスリーダー、技術専門家らと議論していく。オーストラリアや米国ハワイ、フランスなど海外から講師を多数招いている他、最終日には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のRajendra Pachauri(ラジェンドラ・パチャウリ)議長のインドから生中継による特別基調講演も予定している。