日本メーカーは世界経済のパラダイム・シフトを受け入れていない

Sibal氏 グローバルのビジネス環境は大きく変化しました。グローバル企業は一国の企業ではなく、本当に「グローバル」であることを求められるようになった。例えば、米国で会社を登記しても、もはや米国企業ではありません。世界中から部品を調達して中国で製品を生産し、ソフトウエアやサービスをインドで開発し、顧客サービスをベトナムから提供する。こうした新しいパラダイムが、世界経済を動かしているのです。

 日本メーカーは、この世界経済のパラダイム・シフトを受け入れていない。多くの国や地域で製品を販売しているものの、本当の意味でグローバルな取り組みにはなっていません。私の希望は、インドが日本メーカーの真のグローバル化に寄与することです。

 インドには低コストの経済環境と、質の高い人材が存在します。それを活用しながらインドとの協力関係を築くことで、日本メーカーは国際競争力を高められるでしょう。既にインドで生産を始めている日本の自動車メーカーなどの株価が好調であることからも、それは明らかです。

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 インドがエレクトロニクス大国を目指す背景には、経済成長と人口爆発がもたらす貿易赤字拡大への危機感がある。現在12億人の人口は、2050年までに17億人に増え、世界最大になると予測されている。消費の中心となる中産階級は、数年後にはEU加盟国の人口(約5億人)を上回る見込みだ。インド政府の試算では、同国内のエレクトロニクス機器の市場規模は現在、450億米ドル(約4兆2000億円)。2020年には4000億米ドル(約36兆8000億円)と大きく膨らむ見通しという。

Sibal氏 今、インドではエレクトロニクス製品のほとんどを輸入に頼っています。このままでは、2020年にエレクトロニクス分野の輸入額が3000億米ドル(約27兆6000億円)に達し、原油の輸入額を上回ってしまう。インド国内のエレクトロニクス産業の育成は必須なのです。1000億米ドルの投資は、そのための振興策です。

 インド国内の4000億米ドルというエレクトロニクス製品の需要は、日本メーカーがインドに投資する大きな理由になるでしょう。

 インドにとっては、製造と研究開発の両方の投資が大切と考えています。製造への投資はグローバル市場でのコスト競争に必須ですし、研究開発は市場のリーダーになるために必要です。日本メーカーにとっても、インドへの製造と研究開発の投資によって、現在と将来の競争力を得られます。

 例えば、日本では国内の半導体工場の閉鎖が相次いでいます。それは、日本国内での半導体生産にもはや競争力がないからでしょう。それならば、工場をインドに移してはどうでしょうか。

 振興策では、エレクトロニクス関連の製造施設やインフラなどを新規に整備する際の費用に対して50%の補助金(再開発の場合は75%)を提供するほか、消費税を無税にするなどの10年間にわたる優遇策を設ける。Sibal氏は、首都デリーと西海岸のムンバイを結ぶ街道沿いに、エレクトロニクスなどを中心にした7つの産業都市を建設する構想も披露した。こうした取り組みの基盤にあるのは、これまで育成してきたソフトウエア産業の存在だ。