国際連合(国連)が主催するインターネット関連の国際会議が存在感を高めている。「Internet Governance Forum(IGF)」と名付けられた会議だ。2012年11月には、旧ソビエト連邦から独立したアゼルバイジャンの首都バクーで7回目の会議が開催された。
 このIGFのテーマやプログラムを助言する五十数人の識者「Multistakeholder Advisory Group(MAG)」の1人として、日本から参画している人物が加藤幹之氏(米Intellectual Ventures 上級副社長兼日本総代表)である。
 加藤氏は、IGFをはじめとするインターネット関連の国際会議への日本企業の関心が薄いこと、そして情報発信が少ないことに危惧を抱く。「このままでは、インターネットの世界で日本の存在感が薄れかねない」と警鐘を鳴らす同氏に、その理由を聞いた。(聞き手は高橋 史忠=Tech-On!)

(アゼルバイジャンでのIGF会議については『日経エレクトロニクス Digital』のワールド・レポート「『火の国』が実現を目指す、インターネットのシルクロード」で詳報しています。有料会員限定)

―― 「IGF」という会議について、「Tech-On!」のメイン読者である日本の製造業の技術者には「よく知らない」という人が多いように思います。もしかすると、IT(情報技術)やインターネット関連企業の関係者の間でも、なじみが薄いかもしれません。IGFは、何を目的に開催されている会議なのか。まずは、そこから教えてもらえますか。

加藤 幹之(かとう・まさのぶ)氏
米Intellectual Ventures 上級副社長兼日本総代表。1977年、富士通入社。米ワシントンD.C.駐在などを経て、2004年より同社経営執行役、法務・知的財産権本部長。富士通研究所常務、富士通総研専務を歴任後、2010年8月から現職。日本経団連の知的財産部会長、文化審議会・著作権部会委員等を歴任。東京大学、米ミシガン大学ロースクール卒。米国(ワシントンD.C.、ニューヨーク)弁護士。Tech-On!では、技術者列伝コラム「華麗なる技術者」を連載中。(写真:加藤 康)
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加藤 幹之氏(以下、加藤) ええ。IGFは、インターネットに関連する制度や技術などを話し合い、世界的な調和を図る目的で国連が設立した国際会議です。2006年にギリシャのアテネで開催した第1回の後、1年に1度、2012年のアゼルバイジャンでの会議まで7回の会議が開催されました。

―― 会議では、何を決めているのでしょう?

加藤 社会制度や技術仕様などを決める決議機関ではありません。「インターネットを、どのように国際的に管理していくか」という命題について、世界各国の関係者が一堂に会して意見を交換しています。インターネット関連の技術や、セキュリティー、インターネット犯罪、知的財産権など、一つの国や地域では解決できないさまざまな課題を国際的に共有しようというわけです。

―― 第2回の会議はブラジルで開催され、その後、インドやエジプト、ケニアなど途上国で会議が開催されました。あえて途上国で開催する狙いは何かあるのですか。

加藤 基本的には、立候補した国が開催する仕組みになっています。途上国で開催されている理由は、途上国でインターネットへの関心が高まっていることが大きい。インターネットにより途上国の開発支援を行うことが大きな議題の一つになっていることから、手を挙げる国が複数あれば、途上国で優先的に開催している側面もあるでしょう。その背景には、途上国を中心にインターネット利用者が爆発的に拡大しているということがあります。

 インターネットは今や、世界的に社会の重要なインフラになりました。ご存じと思いますが、インターネットは歴史的に見ると最初は一部の研究者が使うネットワークでした。それが商用利用されるようになり、先進国を中心に利用者が拡大した。しかし、途上国の利用者が急拡大する中、インターネット関連の社会的な課題は、先進国だけで話し合っても解決できない段階に入っています。