――ビジネスの対象を中国から東南アジアにシフトしようとする日本企業の動きが、最近、目につくように感じます。

 東南アジアは今後成長が期待できる市場ですが、中国とは規模が違います。中国の2011年の名目GDPは7兆3000億米ドルですが、東南アジア(ASEAN)の名目GDPは2兆2000億米ドルに過ぎず、3.3倍の開きがあります。しかも、この格差は今後5倍まで拡大すると予測しています。人口は、中国の13億5000万人に対して、ASEANは6億1000万人と、2倍以上の差があります。日本からの輸出額を見ても、中国(12兆9000億円)は一つの国でASEAN全体(9兆8000億円)を上回っています(図2)。日本企業にとって最も重視すべき市場は中国だということが分かると思います。

図2 中国の市場規模はASEANよりもはるかに大きい
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 しかも、中国市場は既に、日本企業にとって重要な収益の柱になっています。世界の中で、中国に対する投資が最も多い国・地域は日本です。中国商務部の発表資料を基にJETROが作成した資料を見ると、2008~2009年のリーマンショック以降、日本は対中投資を急激に増やしていることが分かります(図3)。2012年は反日運動がありながら、対中投資金額は伸び続けました。チャイナ・リスクやチャイナ・プラス・ワンを言いながらも、日本の産業界は実際には中国にものすごく投資していて、その規模は世界一なのです。

 さらに、中国でのビジネスがうまくいっている、という日本企業が多いのです。2012年に国際協力銀行が発表した「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」を見ると、よく分かります。海外拠点の収益率について調査したアンケートがあるのですが、中国に進出した企業で「現地の収益率が日本よりも高い」と回答した企業の割合は約30%にのぼりました。この割合は、タイに次いで2番目に高い値です。一方、北米や欧州に進出した企業に同じ質問をしたところ、「現地の収益率が日本よりも高い」と回答した企業の割合はわずか15%前後でした(図3)。このように、日本と中国の間にはさまざまな問題がありますが、中国ビジネスで成功している日本企業はたくさんあるのです。

図3 主な国・地域の対中投資の推移(左)と、「進出先の現地の収益率が日本を上回る」と回答した企業の割合(右)
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