――デジタルホスピタルは、多くの企業の力を結集するためのプラットフォームでもあるわけですね。

宮田喜一郎
北原 茂実氏(写真:皆木 優子)

 我々の役割は、コーディネーターであるとも言える。我々の病院が存在する八王子(東京都)という街に、数多くの企業の技術やノウハウを集結し、世界に打って出るモデルを作る。これまでは、特定の企業が特定の地域で実証実験を実施するなど、あまりに動きが散発的すぎた。これからは、1社の企業の努力によって勝ち抜ける時代ではない。一つの大きなテーマに対して、複数の企業の力を結集させる必要がある。デジタルホスピタルは、そのための大きな原動力になる。

――病院の役割そのものを大きく変えようとしているわけですね。

 医療を、どう定義するのかが重要だ。病院という箱(建物)の中で手術をしました、注射を打ちました、薬をもらいました…。それが医療だと思われていたのが、これまでだ。

 しかし、私の考える医療は違う。人がいかに良く生きて、死ぬか。人の生活のすべての過程を総合的に管理するのが医療だ。だからこそ、医療は本来、あらゆる産業と関係がある。医療こそ、あらゆる産業と有機的に結び付くことができる。

 もっと言えば、医療は本来、究極の情報産業だ。私は昔から、患者に「あなたの趣味は何ですか?」と聞いている。何でストレスをためているのかなどの背景を探るためだ。これまで一度として「余計なお世話だ」とか、「何であなたに教える必要があるのか」などと言われたことがない。これは一例だが、病院には、驚くべきほどの個人情報が集積している。

 こうした情報をどう生かすか。例えば、バリアフリーの家はどこで売れるのか、どの地域にどんな食事を摂取すべき人が多いのかなどが分かってくる。これまでは、こうした視点でとらえていなかっただけ。病院が情報機関として目覚めれば、あらゆる産業の構図を変えていく可能性があるだろう。