1949年生まれ。1971年に東北大学工学部電子工学科卒業,1976年に同大学院博士課程修了。同年より同大学工学部助手。1981年に助教授,1990年に教授。東北大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー長,半導体研究振興会常務理事 研究所副所長,仙台市地域連携フェローを務める。2006年春に紫綬褒章を受賞。(写真:柳生 貴也)
1949年生まれ。1971年に東北大学工学部電子工学科卒業,1976年に同大学院博士課程修了。同年より同大学工学部助手。1981年に助教授,1990年に教授。東北大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー長,半導体研究振興会常務理事 研究所副所長,仙台市地域連携フェローを務める。2006年春に紫綬褒章を受賞。(写真:柳生 貴也)
[画像のクリックで拡大表示]

30年以上にわたってMEMS(micro electro mechanical systems)技術の研究を続け,この分野をリードしている東北大学教授の江刺正喜氏に,大量生産時代のMEMSと,日本と海外におけるMEMS研究の相違について聞いた。MEMSデバイスの事業化を進める企業には海外のベンチャが多いが,その一因が日本の大学での研究環境にあるという。(聞き手は,三宅 常之)

MEMS(micro electro mechanical systems)技術を使ったデバイスの量産規模が拡大しています。


 MEMSデバイスの市場は,年率20%前後で成長しています。成長率が10%前後の半導体に比べて大きく,今後も成長が期待できます。しかも,用途が拡大しています。従来,MEMSといえばセンサーが中心でしたが,さまざまな受動部品へ広がりつつあるように感じます。例えば,水晶発振器を置き換えるSi共振器,FBAR(film bulk acoustic resonator)を使った周波数フィルタなどです。

今後も用途は拡大していくのでしょうか。


 受動部品の用途では,今後,特にRF(無線周波)回路に使う周波数フィルタの市場が拡大すると見ています。私は,数多くの企業と共同でMEMS関連の研究開発を進めていますので,その立場からこの分野が特に成長が期待できると感じています。ただ,ここへ来てMEMSデバイスの市場が急拡大しているからといって,今後,極端にMEMSデバイスの種類が増えていくとは限りません。一般にMEMSデバイスは,1製品に対して一つの製造プロセスを適用する必要があり,半導体など他のデバイスに比べて開発に手間やコストがかかるからです。

RF回路向け周波数フィルタには,ここへ来て製品化されたMEMSデバイス「Si共振器」に使っている技術を適用できそうです。実際,既存の周波数フィルタは共振器を使っています。


 共振器を使って周波数フィルタを作成することは原理的に可能です。しかし,現行製品のパッケージ技術などをそのままRFフィルタに適用することは難しいと見ています。現行のパッケージには寄生容量が多く,RF信号の伝送には向かないからです。もちろん,それに適したパッケージ技術の開発は,既にさまざまな研究機関が進めています。例えばベルギーIMEC(Interuniversity Micro Electronics Center)が開発中のSiGeを使ったMEMS部の封止技術に注目しています。

RF回路においては,MEMS部とLSIの集積化が,今後のトレンドになっています。


 半導体製造技術は,MEMSによるフィルタやスイッチなどの異種デバイスを,LSIと融合していく方向でこれまで進んできました。この進化は,今後もいっそう進むと見ています。ワン・チップで携帯電話機の基本機能を実現することが求められるからです。また無線技術は,今後,携帯電話機のみならず,さまざまな分野で必要とされます。特に周囲の状況をセンシングして無線で通知できる無線センサーは,今後多くの用途で使われます。その時に低コスト化と小型化を実現できるMEMSは,不可欠の技術になるでしょう。