急速な発展を遂げている湖北省で武漢に次ぐ都市として注目を集めているのが襄陽(じょうよう)だ。長江の源流の一つ漢江に抱かれた自然あふれる街襄陽は、古くは三国志の舞台として知られる。その襄陽の中核開発区である襄陽国家高新技術産業開発区は、日産自動車が東風汽車との合弁会社である東風日産乗用車の主力工場を襄陽に建設して以来、一気に自動車産業で発展を遂げた。日産は主力車種である中型車「ティアナ」やSUV「ムラーノ」をここで生産しているが、2014年からは高級車「インフィニティ」の生産も開始する予定だ。また襄陽は中国政府から新エネルギー車の模範基地と新エネルギー車の生産基地という2つの認定を受けており、現在は電動バスを中心とした研究開発も活発に行われている。そんな勢いのある襄陽国家高新技術産業開発区招商局境外分局局長の周宏林氏に発展のシナリオを聞いた。(聞き手は、中田靖=アジアビジネス本部)

三国志ゆかりの地

日本ではまだあまり知られていない襄陽ですが、どんな街なのですか。

周宏林氏
周宏林氏
襄陽国家高新技術産業開発区
招商局境外分局局

 襄陽は古代から中国の重要な要地として栄えた街で、2800年あまりの歴史を持つ都です。三国志の舞台として、全120回のうち32回も登場する天下分け目の主戦場としても知られています。諸葛孔明が劉備の三顧の礼を受けて出廬(引退して世俗を離れていた人が再び官職に就くこと。襄陽での逸話からこの言葉が生まれた)したことでも知られる場所です。

 襄陽は長江の支流である漢江に抱かれた街で、山を背景に城のお堀は漢江から流れ出た自然の水で取り囲まれているなど、山水豊かな風光明媚なところです。かつて南から長江を船で上ってきた人は、この襄陽で馬に乗り換えさらに北に向かったことから、「南船北馬」という言葉も生まれました。

[画像のクリックで拡大表示]

 漢江は1000トン級の船の往来が可能で、現在拡張を進めている工事が完成すれば3000トン級の船も利用できるようになります。漢江から長江に出れば、西の重慶、東の上海にも船で貨物を運ぶことができます。また襄陽は中国の地理的中心にあって、東西南北に延びる鉄道、高速道路が交差する交通の要所でもあります。武漢や重慶、西安などと結ばれる2つの高速鉄道も襄陽で交差し、3年以内には完成する予定です。空港からは北京、上海、武漢、重慶など主要都市へ毎日便が出ています。

 それから襄陽は臨漢門など世界遺産に申請しているい旧跡もあり、観光資源が豊富です。これからは観光都市としても襄陽は広く知られることになるでしょう。

タイトル

東風日産乗用車が主力「ティアナ」を生産

襄陽ではどんな産業に注目しているのですか。

 襄陽は農産物の産地として栄えてきましたが、東風汽車とプジョーシトロエングループが生産ラインを置いてから自動車の街として発展してきました。同じ湖北省の省都である武漢に本社を構える東風汽車が、湖北省第2の都市である襄陽に工場を構えたことは自然な流れです。そして続いて進出してきた日産自動車が東風汽車との合弁会社である東風日産乗用車の生産ラインを襄陽に設立してから、一気に乗用車を主力産業とする街として発展することになりました。

 東風日産乗用車の襄陽工場では現在、日産の主力車種である中型車「ティアナ」やSUV「ムラーノ」を生産しています。さらに2014年からは高級車「インフィニティ」の生産も開始する方向で話が進められていて、来年にも第二工場の建設がスタートする見通しです。現在は67万台の完成車、140万台のエンジンを生産しています。第12次五カ年計画期間中には、これを100万台の完成車、200万台のエンジンに高めていく計画です。

 また自動車の部品メーカーは300社が襄陽に進出しており、サプライチェーンを形成しています。現在は東風汽車系列など、中国系の企業が大多数を占めていますが、日系の自動車部品メーカーでは既に生産を開始しているシート製造の日本発条(ニッパツ)のほか、プレスメーカーの東プレや三五、サンルーフ製造のベバストも襄陽への進出を決めました。襄陽に進出している日系企業は15社程度ですが、そのうち自動車関連企業が3分の1を占めています。

タイトル