実際,世界的に見ても,業績の好調なメーカーは,台湾のEMS企業を活用している。携帯電話機では,フィンランドNokia Corp.や米Motorola, Inc.,ゲーム機ではSCEやMicrosoft社がその好例だ。先ほど言ったように,民生機器はどんどん中身がコンピュータになろうとしている。その流れは今後も加速する一方だ。我々が製造を請け負えば,日本の民生機器メーカーのベスト・パートナーになり得る。

 日本メーカーは技術開発のリーダーであり,重要な技術を多く握っている。そして,中国市場やインド市場の拡大といった商機が目の前にある。これらの市場を獲るには,我々との協業は欠かせない。「Just do it!」。なぜ行動をためらうのか。日本メーカーにとってのライバルは我々ではなく,韓国勢などを含めた世界の機器メーカーであるはずだ。

 世界市場への進出にリスクが伴うのは知っている。だが,日本企業に躊躇ちゅうちょしている時間はないはずだ。私は,会社がまだ小さかった5年前には,成功率30%の案件にも果敢に挑んだ。今でも,成功率60%の案件であれば投資する。だが,日本企業は99%を求める。それでは,好機をみすみす逃がしてしまう。小泉純一郎首相は,その決断力で日本を変えたはずだ。日本企業になぜできない。

――そのために日本の経営者と,日本の技術者は何をすればいいと思うか。

 多くの日本の経営者に,明らかに足りないと思える素質がある。それはトップダウンの判断力だ。

 従来の日本企業の手法は,コミュニケーションや議論に多くの時間を費やすことで,適切な決断を導くものだった。だが,現在は産業の構造変化がすさまじい速さで進んでいる。昔は2年かけて進んだ変化が,今では1年になり,今後は半年になる。その速さに合わせて意思決定も早めねばならない。このため,トップダウンの決定が重要になる。

 変化が緩やかだったかつては,それぞれの分野の担当者が変化の全体像をつかむのは易しかった。今は変化のスピードが速すぎて,トップでないと全体像がつかめない。その判断は正しいか,リスクは十分に小さいか。それを決めることができるのは,トップしかいない。

 むしろ昔の方が,ソニーの盛田昭夫氏をはじめ,即断即決できるリーダーがいたように思う。今は,残念ながらそのようなリーダーが見当たらなくなってきた。

 日本の技術者にも危惧を抱いている。世界一の技術力があるはずなのに,日本の技術者には,「どうすれば開発期間を短縮できるか? ソフトウエアの開発効率は? SCMの効率は?」といった,より広い視野に立って問題を認識できる人が少ない。

 取引実績があるメーカーとしか付き合わない傾向がある点も,日本の技術者の弱点だ。技術で優れる多くのメーカーと取引をするために,もっと外国企業の技術者に業務を託す経験を積んでほしい。欧米企業は,電子メールやファクシミリ,テレビ会議を駆使して,外国の技術者と密に連携できている。

 外国企業との協業を苦手とする理由として,日本語しか話せないことを挙げる技術者は,韓国の技術者が今どれだけ北京語を勉強しているか知っているだろうか。早晩,日本の技術者も,英語だけでなく北京語も学ばねばならない時代が来るだろう。