――日本に工場を建てる計画はあるか。

 今のところない。そもそも,工場で組み立てに従事する日本の若者は減っているのではないか。何度か顧客の工場を見学したが,日本の若い人材はソフトウエアの開発やサービス業の方を好んでいるようだ。

 もし日本で工場を立ち上げるなら,製造ラインをすべて自動化する必要がある。だが,自動化ラインの立ち上げには時間がかかる。新製品の投入サイクルが短いというデジタル民生機器市場の実情には合わない。

―― 他のEMS企業を押しのけた強さの根源には,何があるのか。

 何よりも企業文化だと思う。特に私が重視するのが四つの文化だ。

● 辛勤工作的文化(勤勉に働く文化)

● 負責任的文化(責任を持つ文化)

● 団結並且資源共享的文化(団結し,互いの資源を共に享受する文化)

● 有貢献就有所得的文化(貢献すれば,それだけ所得をもらえる文化)

 特に最初の二つ,勤勉と責任の文化は日本から得たものだ。私は昔から日本をたびたび訪れ,文化も一緒に学んだ。初めて日本に来た時,寮で畳の部屋に住んだことがある。その寮では畳を毎日磨く日課があり,そのためどの部屋も畳がきらきらと輝いていた。日本人の勤勉さに感じ入った。

 団結し共有する文化は,今の日本には乏しいかもしれない。日本企業では,事業ユニットの間で協力関係がないことがあると聞く。我々は幾つかの事業ユニットを持ち,それぞれが製造装置などリソースをやりとりするなど,緊密な協力関係にある。

 貢献した従業員に厚く報いる文化は,日本企業には欠けていると言わざるを得ない。我々だけでなく多くの台湾の企業は,成果を上げた分だけ従業員に高い見返りを与える制度を整備している。例えば業績が良ければ,すべての社員に多額のボーナスをふるまう。多くの日本企業では,優秀な成績を挙げても社長賞がが関の山だ。

―― 垂直統合体制を採るHon Hai社は,日本の民生機器メーカーにとって競合相手になる,とする声もある。

 「台湾や中国の企業が成長すれば,日本の企業は縮小するのでは」と考える日本の民生機器メーカーが多いようだが,それは違う。日本メーカーには高い技術力とブランド力がある。我々は強いブランド力を持っていないので,日本メーカーと緊密なパートナーシップを築ける。今後,中国やインドといった巨大な市場に進出する上で,日本メーカーと台湾メーカーは協調できると信じている。

 日本の民生機器メーカーと我々とは,うまく分業体制を採れるはずだ。すべてのエレクトロニクス機器には,カギとなる五つの要素がある。SoC(system on a chip),ソフトウエア,液晶パネルや電池,メモリなどの基幹部品,筐体やプリント基板,コネクタといったハードウエア,そしてSCM(supply chain management)だ。このうち日本メーカーはSoCとソフトウエア,そして基幹部品といった高付加価値品の開発に注力すればよいではないか。我々は,基幹部品の一部とハードウエア,そしてSCMを提供する。