―― 部材の生産から金型の設計,機器の製造までを幅広く手掛ける事業体制を敷く理由は。

 試作から量産までをワンストップ・ショッピングの形で請け負えるからだ。顧客から見れば,多くの受託企業を工程ごとに使い分けていた従来に比べて,製品企画から量産までに要する期間を大幅に短縮できることになる。

 現在多くの機器メーカーが最も強く求めているのは,製品の設計から量産,小売店やエンド・ユーザーへの配送に至るまでのリード・タイムを減らすことだ。リード・タイムを短くすればするほど,需要に合わせて素早く新製品を出荷できるからだ。

 機器メーカーが「素早く,大量に」を求めるのは,消費者の購買行動が目まぐるしく変わるようになったためだ。例えば米国の子供は,友達と同じものを持ちたがる傾向が強い。だからある時期,iPodが子供向けに爆発的に売れた。だが,子供の嗜好がすぐに変わり,その需要は一気に減った。

 リード・タイム短縮のカギを握るのが金型だ。一般の業者に委託すると金型の製造に4~6週間かかる。これではビジネス・チャンスを逸しかねない。その点,我々は1週間で量産金型を作れる。たとえ不況期でも,金型は必ず必要になる。不況下では1機種当たりの売上高が低下するため,機器メーカーは機種数を増やそうと,多くの金型を発注するからだ。

――なぜ他社と比べて素早く金型が作れるのか。

 金型の技術力だけ見れば日本企業が世界一であることは疑いない。だが,コストとスピードでは我々が上回る。その理由は二つある。まず3万人もの金型技術者を擁し,豊富な設備を24時間フル活用できること。こうした会社は世界を見渡してもほかにないはずだ。もう一つは,今までに設計したすべての金型に関するノウハウを蓄積した巨大データベースを作り上げたことだ。これを参照することで,極めて短時間で金型を設計できる。しかも,設計すればするほど,データベースが充実することになる。

――Mg筐体の材料となるMg合金インゴットの生産まで手掛けている。

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 Mg筐体で大量に消費するため,Mg鉱石の鉱山を買い取ることを検討したこともあった。ところが鉱石を確保することよりもMg合金を生産することに付加価値があることが分かった。このため,世界最大級のMg鉱石の産地である中国の山西省に,インゴットのリサイクル生産工場を作った。