――高い成長率を維持すべく,次はテレビの製造を手掛けるという話も聞く。

 テレビをはじめとする民生機器の中身は,パソコンなどコンピュータ機器のそれに急速に近づいている。このため,民生機器の事業構造や価格の変化が,コンピュータ機器と同じように早く,かつ鋭くなった。その結果,パソコン製造で培った我々の強みが民生機器にも生かせるようになった。

 このことを,私はソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の久多良木健氏から,かなり以前に学んだ。民生機器の中でもゲーム機は,当時からコンピュータに近かったからだ。プレイステーション事業を統括していた彼に,私が「あなたの競争相手は任天堂か,それともセガか?」と聞いたところ,久多良木氏は首を振り「どちらも違う。米Intel Corp.と米Microsoft Corp.だ」と答えた。

 確かに我々は,液晶テレビに参入する計画を練っている。OEMかODMの形になるだろう。製造するのは中国,インド,そして欧州市場に向けた製品になる。今後,液晶テレビは,表面加工を含めた筐体デザインが重視される,いわば家具のような存在になるだろう。筐体の製造を得意とする我々の強みがますます生きる。

――民生機器事業を取り巻く環境が激しく変化するようになった背景は。

Terry T. M. Gou(郭台銘) 1950年,台湾生まれ。1971年に台湾の中國海事專科學校航運管理科を卒業。1974年に鴻海塑膠企業を創業。1982年に社名を鴻海精密工業に変える。

 半導体プロセスで製造する部材の割合が増えたことにある。例えば,CRTテレビの製造に,半導体プロセスが寄与する割合はそれほど高くなかった。ところが,液晶テレビには数多くの大規模LSIが載り,かつパネルそのものも半導体プロセスで製造する。このため,半導体と同じようにパネルにも供給過剰と供給不足が交互に訪れ,価格のアップダウンが激しくなる。先月1000米ドルだった液晶パネルの値段が今月は600米ドルになるといった動きを示す。

 これだけ変化が目まぐるしいと,部材調達から製品出荷までのサプライ・チェーンをいかに短くするかが,競争に勝つための最大の武器になる。サプライ・チェーンを短くすれば,その分だけ部品調達を遅らせることができる。液晶テレビであれば,価格が下がったタイミングでパネルを入手できる可能性が高まる。

 価格変動が激しい部材を消費地の近くで組み込むという手法は,パソコン事業を通じて学んだ。我々は1995年にデスクトップ・パソコン事業に乗りだした。メイン・ボードやコネクタ,電源などを筐体に収めて半完成品として出荷し,欧米など消費地に近い場所でメモリとマイクロプロセサを組み込む「ベア・ボーン」型のビジネス・モデルは,もともと私が考案したものだ。船便で輸送する間に,部品の価格下落が起こることを織り込むという発想から生まれた。