─Samsung社といえども、最近の決算ではテレビ事業や液晶パネル事業が不調です。日本の民生機器メーカーは盛り返せるのでしょうか。

 それらの事業の業績を見ただけでは、Samsung社の実力は分かりませんよ。ガラス・メーカーの米Corning社との合弁企業である、韓国Samsung Corning Precision Materials社をチェックすべきです。私は、この会社がかなりもうかっているとみています。

 世界の3大テレビ・ブランド、つまりSamsung社とソニー、LG社はいずれも、Samsung Corning社のガラスを使った液晶パネルを採用しています。LG社は競合するSamsung社の関連会社であるSamsung Corning社からガラスを買わない方がよいように思えるのですが、実際には買っています。韓国政府がLG社に圧力をかけたからです。この圧力は理にかなっていました。テレビ用液晶パネルおいて、ガラスの原価比率が高かったからです。

─Samsung Corning社が生産量を高めてガラスの値段を下げれば、Samsung社やLG社は液晶テレビの値段を下げられる。そうなれば、他の競合を、より不利な立場に追い込めるわけですね。

質素で知られる台湾・新北市の本社。Hon Hai社の事業所はどこも同様で、例外は買収した企業のオフィスをそのまま使っている場合だけである。
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 Samsung社は、垂直統合型の企業です。サプライチェーン全体を見なければ競争力は分かりません。もう一つ、Samsung社は長期的な視野を持っている企業であることを忘れてはなりません。米国や日本の企業が収益性を見るときの期間は四半期~1年、長くても3年ほどでしょうか。ところがSamsung社は、それが10年です。Samsung社にとってテレビや大型液晶パネル市場の冷え込みは、むしろチャンスかもしれません。

 私はこの先の10年で、かつての米国のRCA社やZenith社のように崩壊する企業が日本から出てこないことを願っています。日本のテレビ・メーカーが勝ち残るために、我々は技術開発、意思決定の高速化、柔軟性の向上、アフターサービスの充実など、多くの面で貢献したい。私どもを敵に回して喜ぶ企業は、Samsung社やLG社ですよ。

─日本企業とHon Hai社が組めば韓国企業に勝てるのでしょうか。

 もちろん。間違いない。100%勝てます。

 日本人と台湾人は、心の底から信頼し合える人々です。一般的な台湾人が日本の震災に向けてどう行動したかはご存じでしょう。Hon Hai社としても、購買を担当する戴正呉副總裁と相談の上、購入代金の支払いを早めるといった手を打ちました。

 私生活の面でも、日本の復興にささやかであっても貢献したいと思っています。今回の日本出張には妻を連れてきました。彼女は香港で買い物をすることが多いのですが、日本で買い物をすれば日本経済に貢献できますからね。彼女のおばあちゃんは日本人なので、最近生まれた私の子供は日本人の血が1/8入っているんですよ。

 日本は既に、電子機器の製造に向かない場所になっています。最近はそれに拍車が掛かっている。日本円は強すぎるし、高齢化が進んでいるので年金や健康保険といった社会的コストの上昇に歯止めが利きません。原子力発電所の多くが運転していないために、電気代までもが上がる懸念が出てきている。

 しかし同時に、日本にはソニー、シャープ、東芝、任天堂、日立といった、世界に知られたブランドを持っている企業が多く存在します。私どもは、この優位性を最大限に生かしてもらえるよう、民生機器全体の受託業者としての力量を一層高めていきます。その中には、ソフトウエア開発なども含まれます。テレビ一つ取っても、クラウド・コンピューティングなしには、今後の姿を考えられませんからね。クラウドは、私どもを将来にわたって成長させる原動力になるでしょう。インターネット対応家電だけではなく、データセンター(IDC)の設備も運営も手掛けるつもりです。