今年3月5日から開催された全国人民代表大会(全人代)で、温家宝首相はGDPの目標をこれまでの8%から7.5%に引き下げるなど、経済発展を量(成長率)から質(貧富の格差を是正する安定成長)へ転換することを表明した。そうした中、質、量ともに躍進しているのが中国4大直轄市の一つ、重慶市である。重慶市の2011年のGDPは前年比16.4%増の1兆11億1300万元(約12兆130億円)で、中国全土で第1位の経済成長率を記録した。

 市長として大連を急成長させた功績を持つ薄熙来(はくきらい)氏が2007年に書記に就任して以来、黄奇帆市長とともに次々と新機軸を打ち出し、重慶はいまや中国の西部開拓の最前線基地として重要な役割を担うようになっている。重慶の主要開発区のうち、重慶経済技術開発区では電子産業をベースとした発展を計画しており、新たに「重慶日本電機電子産業基地」(関連記事)の建設も進めている。

 一方、2010年6月に設立された重慶両江新区は、上海浦東新区、天津浜海新区に次いで3番目の新区として注目を集めている。ここは中国内陸区としては唯一の国家級開発開放新区となる。そこで重慶市対外貿易経済委員会主任で、中国国際投資促進会副会長の王毅氏に2つの開発区をはじめとする重慶発展のシナリオを聞いた。(聞き手は、中田靖=アジアビジネス本部)

※ 中国共産党中央は3月15日、薄熙来重慶市党委員会書記の政治局員の職を解き、後任に張徳江副首相を充てる人事を決定した。側近だった王立軍副市長の米総領事館駆け込み事件の責任を問われた形だ。薄氏は9日の記者会見で、王立軍氏の孤立した事件で、重慶の発展に全力を傾ける意向を示していた。

東西を結ぶ重慶は西部大開発の「橋頭堡」

GDP中国1位を達成した重慶の特徴を教えてください。

王毅氏
王毅氏
重慶市対外貿易経済委員会主任
中国国際投資促進会副会長

 中国はいま、改革開放から30年、WTOに加盟してから10年あまりが経過しました。80年代は広東省、90年代は上海を発展させてきました。そして2000年から現在までは、天津、北京を中核とする渤海湾エリアを発展させてきました。GDPで世界第2位になるなど確かに中国の国力は高まりましたが、沿岸部と内陸部という東西の格差も広がっています。

 胡錦濤国家主席は「これからの経済の中心は重慶である」と明言しました。温家宝首相も「重慶は人口も多く、山の街、農村の街を多く抱えています。ここを改革発展させれば、西部開拓のモデルケースになる」と述べています。重慶は地理的にも東西をつなぐ中心にあるため、西部大開発の「橋頭堡」と位置づけらているのです。第12次五カ年計画においては、東西の架け橋となる発展計画を推し進めていく考えです。

 世界経済を促進する大きな力が中国の都市化ですが、重慶は中国全土の中でも一番都市化のスピードが速い。重慶市全体の人口は3200万人でそのうち都市部の人口は500万人ですが、今後5年間で都市部の人口は1200万人にまで増える見通しです。重慶市の面積は8.24万平方キロで、これは北京、上海、天津を合わせた面積の2.4倍にあたります。重慶の都市化は年平均70平方キロの増加速度で進んでおり、深セン、浦東、濱海開発の年間平均増加速度30平方キロを大きく上回っています。このペースで開発が進めば、今後5年で都市部の面積は1200平方キロまで拡大することになります。一人あたりの平均都市建設用地は93平方メートルから115平方メートルへと拡大する見通しで、国内外の投資家にも5兆元の投資機会をもたらすでしょう。

経済圏地図
[画像のクリックで拡大表示]

 重慶では薄熙来書記のもと「5つの重慶」というスローガンを掲げています。それは、より広く、より良く、しかも購入可能な価格の家に住めることを目指した「住みやすい重慶」、市中心部には渋滞がなく、農村にはアスファルト舗装道路があることを目指した「交通の便が良い重慶」、たくさんの木を植え、新鮮な空気を吸えるようにすることを目指した「緑あふれる重慶」、外出時の不安をなくすことを目指した「治安の良い重慶」、子どもが健やかに育ち、お年寄りが長生きし、すべての人が健康に暮らせることを目指した「健康的な重慶」という5つです。

 こうした住民の基本的な生活の向上がない限り産業の発展もないと考えています。公的賃貸住宅に1100億元、新農村建設に1000億元、エネルギー保障に1000億元、省エネ・排出削減に500億元というように、この5つの重慶を実現するために1兆2000億元余りを投資する計画です。

自動車、オートバイ、ノートPC、クラウド・コンピューティングに注力

重慶はどのような産業に力を入れているのですか。

 重慶市は製造業の街として発展してきました。自動車の生産額は全国第2位、オートバイは全国第1位です。また近年は先端技術による近代製造業の産業クラスターを形成しており、2011年1-8月期の工業生産額は7226億4000万元で前年比27.8%増加し、工業付加価値額は22.4%増、伸び率は国内トップに躍進しました。電子情報産業の総生産額は400億元で前年比293.5%増です。

 中国3大自動車メーカーである長安汽車の2010年の売上高は1000億元を突破し、西部地域で初めて売上高1000億元クラスの企業となりました。こうした中核産業をさらに伸ばし、新興産業に投資していくことで、5000億元規模の「国際自動車都市」、生産販売量と輸出量で国内トップを維持する3000億元規模の「中国オートバイの都」、1億台の生産能力を有する「グローバルノートパソコン基地」、決済サービス世界最大手のペイパル、アリババなどが進出する3000億元規模の「グローバル『クラウド・コンピューティング』データ開発処理センター」の構築を進めていきます。

 このほかファインケミカル、計器、金属製錬、食品工業など、いずれも国内上位を占めている産業もさらに育成していく考えです。重慶市は向こう5年間で、こうした重点産業に累計1兆5000億元を投資し、工業販売生産額2兆5000億元超えを目指します。

 一方、金融業は重慶の基幹産業であり、金融業の付加価値額がGDPに占める割合は6%、全国で3位となっています。担保、小額融資、信託、リース、プライベートファンド、金融会社など新しい業態が急速に発展し、オフショア決済や電子商取引の国際決済を先駆けて展開しています。西部地域で唯一ファンド管理会社と証券機関を擁しているのも特徴です。HSBC、シティバンクなど外資系金融機関96社が進出しており、西部地域で最も多い都市となっています。重慶連合産権取引所は、西部最大の財産権取引市場であり、要素集散地、プライシングセンターとなっています。