常熟東南経済開発区(CSDZ)は2003年5月に、江蘇省人民政府に認可されたまだ新しい省級開発区である。常熟市旧市街区の東南側に位置し、総面積は104平方キロメートルだ。2010年11月にトヨタ自動車が開発区内に設立したトヨタ自動車研究開発センター(TMEC)は、中国第一汽車集団とのR&Dセンター、広州汽車集団とのR&Dセンターと連携した「3極トライアングル体制」のキープレーヤーとして注目を集めている。常熟東南経済開発区はこれまで自動車部品をはじめ、精密機械、産業機械、電子情報などの産業を中心に発展してきた。そしてこれからは現代サービス産業にも力を入れていくという。そんな常熟東南経済開発区の発展のシナリオと日本企業誘致の戦略について、常熟東南経済開発区副主任の徐海東氏に聞いた。(聞き手は中田 靖=アジアビジネス本部)

自動車サプライチェーンの中核を担う産業基地

徐海東氏
徐海東氏
常熟東南経済開発区副主任

2011年10月に常熟を訪れたトヨタ自動車の豊田章男社長は常熟東南経済開発区に中国産ハイブリッドの開発部隊を設置し、2015年前後を目処に、ハイブリッドコンポーネントの現地化を計画していると表明しました。中国の自動車産業発展の鍵を握る開発区発展のシナリオをお聞かせください。

 上海の西80キロの地点にある江蘇省常熟市は、「グレーター蘇州(大蘇州)」(蘇州市、昆山市、常熟市、張家港市、呉江市などを含むエリア)の中心にあって、いままさに経済成長の真っただ中にあります。常熟市旧市街の東南に位置する常熟東南経済開発区は2003年5月にできたばかりのまだ新しい開発区で、海外からの企業誘致を積極的に進めており、世界中の企業にアピールしています。中でも日本は最も重要なパートナーと考えています

 グレーター蘇州には自動車関連産業が約3000社集まっていますが、そのうち日系企業の数は約1000社に上ります。常熟東南経済開発区は2006年3月に自動車部品産業園を設立したことで、トヨタ自動車、三菱電機、NSK、住友電装、大同工業など、35社の自動車関連企業を集めることに成功しました。2010年10月には先進製造業集積区にトヨタが研究開発センターを設置して、プリウスをはじめとするハイブリッドカーの現地生産の開発拠点としても重要な役割をになっています。まさに常熟東南経済開発区はグレーター蘇州が担う大規模な自動車サプライチェーンの中核を担う産業基地として発展を遂げているのです。

人材に裏打ちされたR&D、現代サービス産業への展開

自動車以外の産業誘致戦略とその際に提供できる人材についてお聞かせください。

 2007年7月には江蘇省対外貿易経済合作庁より唯一認定を受けた「日系工業園」も設立しており、自動車関連産業以外の分野においても、精密機械や産業機械の分野で多くの日本企業誘致を進めています。またそれ以外にも、アウトソーシング産業やソフトウエア産業、コンテンツ産業といった現代サービス産業の誘致にも力を入れていきたいと考えています。

 開発区の地図にあるように、中心となる昆承湖の東に広がる中央ビジネス区を取り囲むように常熟科技城エリアがあり、その東に自動車部品産業基地、電子情報産業基地、日系工業園が広がっています。常熟科技城は教育訓練、産業研究開発、産業孵化、商業貿易、コンテンツ産業、現代サービス産業を集中させた近代的な科学技術団地です。このエリアには常熟国家大学科技園もあり、優秀な人材を排出しています。

 今後の産業誘致においては、こうした現代サービス業のほか、それまでの産業においてもR&D部門の導入に力をいれていきたいと考えています。そのために協力できる人材を、常熟では提供することができます。

 常熟は唐の時代から科挙という官僚登用試験制度を実施してきました。常熟は小さな都市でありながら、これまで科挙の合格者である進士を485人、トップ合格者である状元を8人、宰相を9人輩出してきました。科挙が行われていた唐の時代から清の時代までの約1300年間で状元は552人しかいないのですが、そのうちの8人が常熟出身者というのは驚くべきことです。

 このように常熟は教育熱心で、文化的な環境が豊かな街です。R&Dや先進的な現代サービス産業に、こうした人材がお役に立てるでしょう。また、一般のワーカーや管理職の賃金は上海に比べて半分をちょっと超える程度です。こうした点も常熟に優位性があります。