スマートフォンやパソコンを活用したヘルスケア製品の開発を進めるLG Electronics。既に慢性疾患患者向けのソリューションは医療機関などと共同で開発し、実証実験段階まで来ている。ここでの経験やノウハウをどのように一般向け製品に生かし、製品展開に結びつけるのか、そして製品開発の課題は何か、LG Electronicsでヘルスケア製品開発を統括するファン・ヨンドン氏(Youngdon Hwang、Chief Research Engineer, Bio & Health Group/Future IT R&D Lab)に聞いた。

(聞き手は 持田 智也=デジタルヘルスOnline編集長)


-LG Electronicsはこの数年、ヘルスケア関連製品の開発に注力しています。そのきっかけは何でしょうか

ファン・ヨンドン氏
ファン・ヨンドン氏(Youngdon Hwang、LG Electronics, Chief Research Engineer, Bio & Health Group/Future IT R&D Lab)「LGグループのシナジー効果を最大限に高めたい」と話すファン・ヨンドン氏。

(撮影:ATLAS STUDIO)

 医療の情報化で培ったノウハウ、開発力を患者個人や健康な人向けの製品、サービスに活用できると判断したからです。LG Electronicsのグループ企業に、政府機関などのシステム開発を担当するLG CNSという会社があります。韓国で最初に医療の情報化を手がけたIT企業だと思います。

 病院内の作業や情報をデータ化し、その活用方法を開発していくうちに、病院内だけでなく、家庭にいる患者にもこれらのデータを活用できないかと考えるようになりました。そこで10年前に、「Uヘルスケア」と呼ばれる健康を保つためにITを活用する市場に参入したのです。この事業を強化するため、私は3年前にLG CNSからLG Electronicsに異動しました。具体的な数字は公表していませんが、3年前と現在では、担当する社員の数も驚くほど多くなっていて、LG Electronicsがヘルスケアの製品展開にとても力を入れていることを実感しています。

既存のハードウエアを活用、アプリケーション開発で市場へ参入

-市場や製品開発は、どのように強化してきたのでしょう

 LGグループのシナジー効果を出せるような開発が、これまで数年間のテーマでした。医療分野での実績があるLG CNSはソフトウエア開発と導入支援が専門です。ここで生み出したアプリケーションソフトやソリューションは、活用するためのハードウエアが必要です。その機器開発はLG Electronicsの得意分野。この2つの強さを組み合わせて、ヘルスケア市場に参入しようと考えたのです。

実証実験に使っている個人用管理ソフト。スマートフォンで活用する。
実証実験に使っている個人用管理ソフト。スマートフォンで活用する。(撮影:ATLAS STUDIO)

 スマートフォンも携帯できるものなので、ヘルスケアデバイスであると考えています。個人が自分の健康のために使う製品は、自分のために使う機器としての開発が必要となります。LG Electronicsは、携帯電話やパソコンといった誰でも活用する情報端末を製品展開しています。そこでこれらの製品を活用し、その上で動作するアプリケーションソフトを開発することから始めました。

 医療に限らず、ヘルスケア製品全般に必要となるのが「測定する」ことです。医療機器やヘルスケア専用機器を開発するとなると、まずは測定できるようにしなくてはならない。既存製品があるうえ、われわれがすべて開発するのは難しいと考えています。それならば、専用のハードウエア開発から入るのではなく、LGグループが持つ経験、強さをうまく活用できる製品展開にしたのです。

-どのようなソフトウエアを開発しましたか

 韓国政府が国策事業に掲げている「スマートケア」向けのソフトウエアを開発しました。スマートフォンを使って個人のバイタルデータを管理するソフトで、ソウル市とテグ市で実証実験しています。北米などにも同様のスマートフォン向けソフトがあって人気製品となっているようですが、これらのソフトは運動量と食事の管理が中心です。我々はさらに、バイタルデータも管理する機能を加えました。健康志向の高い人が自分の健康維持のために記録するのではなく、高血圧や糖尿病といった慢性疾患の患者が「健康になるため」に使えるようにしたかったからです。

 計測機器は、LGグループではない協力企業の製品を使っています。ただ、利用者の手間を少なくするため、計測データはBluetoothを使ってスマートフォンに転送できるようにしてあります。現在は肥満、血圧、血糖値を管理していますが、今後、心電図や脳波など管理できる項目を増やす予定です。

ソウル市内にあるLG Electronicsの開発拠点。(撮影:ATLAS STUDIO)
ソウル市内にあるLG Electronicsの開発拠点。(撮影:ATLAS STUDIO)

 実証実験では、病院のサーバーで計測データを管理しています。計測データに沿って、それぞれの患者に合わせた指示を出せるようにするためです。スマートフォンでもいくつかのデータは管理していて、通信環境が整っていない場所に行っても、計測を継続し、基本的な指示を出せるようにしています。患者自身が、自分で計測してデータを活用するようにするための機器とソリューションという位置づけですので、使えない場所があってはならないからです。