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 上海市近隣に複数ある開発区の中でも、最大規模を誇るのが上海臨港産業区だ。港に近いというメリットを活かし、特に大型装置の製造企業が多く進出している。また、新エネルギーなど新興産業においても、これから積極的に推進していくという。上海臨港経済発展(集団)有限公司企業誘致センター・総経理の李剛氏に、上海臨港産業区の現状と今後の政策などについて聞いた。(聞き手は木村知史=Tech-On!)

――まず、上海臨港産業区のプロフィールについて教えてください。

 上海臨港産業区は、上海市の東南に位置しており、上海では最大規模を誇る産業開発エリアです。私の所属する上海臨港経済発展(集団)有限公司は、上海臨港産業区を開発する国営企業であり、2003年9月に設立されました。上海臨港産業区は、247km2の敷地を持っていますが、上海臨港経済発展(集団)有限公司はこれら敷地の中での土地開発やインフラ建設、企業誘致、機能開発などを行っています。

 2004年から、実際の建設が始まりましたが、主には大型装置製造業と物流業の集積に力を入れてきました。これまで、約600億元の投資が行われており、現在では約150社がこの産業区に進出してきています。

――他の開発区と比較して上海臨港産業区にはどのような特徴があるでしょうか。

 三つのポイントでお話します。まずは、大型装置の製造がしやすいということがあります。上海臨港産業区では年間の取扱量の大きい港を持っています。ご存知のように上海は揚子江の入り口なので、大型の部材を船で運ぶにはとても適しており、物流コストを大幅に削減できます。

 2010年には正式に、「国家新型工業化産業模範基地」(装置製造業)および「国家新型工業化産業模範基地」(航空産業)の申請が認められています。すなわち、装置製造や航空製造の模範基地としてのブランドも保持しているというわけです。

 二つ目のポイントは、産業区として最新のデザインがされている点です。デザインの理念として、第一に産業と都市生活が結び付くことを掲げています。すなわち、産業が発展するだけでなく、この地域で働き、そして暮らす人々の生活が豊かでなくてはなりません。

 このため、環境には大変気をつけており、例えば人々が生活するエリアには上海で最大級の人口湖を作っており、そこでは釣りも楽しめます。空気も大変きれいで、先日、上海臨港産業区は上海の中心街と比較して「空気が20倍きれい」という報道もされました。

 また、人々が暮らす生活団地も増やしていますし、子供の教育に心配ないように、学校の誘致にも力を入れています。上海で最も歴史の長い中学校である上海中学や海洋専門大学である上海海事大学、上海海洋大学、および電機専門大学である上海電機学院などがすでに進出しています。

 三つ目のポイントは、政府のサポートが手厚いということです。土地のコストは大変低く抑えられており、上海では一番安いクラスに入ります。また、進出などを審査する管理委員会は政府の出先機関なので、審査を短期間で済ますことができます。

 日本企業が進出する場合は、いろいろな面で優遇されます。認定されたハイテク企業は25%の企業所得税が15%になります。また、生活する従業員の方々が暮らすマンションは、相場の半分以下の賃料で貸すことができます。

――具体的には、どのような業種の企業が進出しているのでしょうか

 上海臨港産業区では、以下の七つの業種で中国でトップクラスの産業チェーンを築いていると考えています。(1)自主ブランド自動車及び部品製造、(2)航空設備製造、(3)新エネルギー設備製造、(4)大型舶用部品製造、(5)海洋工事設備製造、(6)物流設備および建設機械製造、(7)国家戦略新産業――の七つです。

 例えば、自動車関連では中国の三大自動車メーカーの一つである上海汽車が生産基地を構えています。同社の自主ブランドである「栄威550」は、こちらで量産を行っています。航空関連では先ほど述べたように2010年に模範基地に基地と認定されてからさらに発展しており、現在中国エンジン製造の大型プロジェクトが進行中です。新エネルギー関連のトピックスとしては、独Siemens社が風力発電の製造プロジェクトを展開しています。

 舶用部品製造は、中でも産業チェーンが特に強固に形成されています。日本の三井造船と中国船舶工業集団の合弁で設立された中船三井造船ディーゼルは、中国で最大規模の舶用エンジンを製造しています。この企業を中心に、ディーゼルエンジンの主要な部品を製造する企業が集積化されています。

――日本企業の進出の様子はどうでしょうか。

 2011年4月に、上海臨港産業区に進出を決定した企業の発表会を開催しましたが、その中にはモリタの合弁企業が日系企業として含まれていました。ただし、日本企業の進出の数は決して多いとはいえません。

 先ほども述べましたが、新エネルギーや自動車、航空機などのハイテク産業の誘致を積極化している上海臨港産業区と優秀な技術を持つ日本企業は、ベストマッチと言えるはずです。現在、我々の方からも著名な企業には声を掛けていますが、是非多くの日本企業に上海臨港産業区を見てほしいと思っています。

 さらに、ハイテク産業だけでなく、その基盤をささえる産業も重要だと考え、それらの産業発展も積極的に推進していこうと予定しています。例えば、素材産業や工作機械産業です。これらの産業に関しても日本はトップクラスであり、是非これらの面からも支援してほしいと考えています。