ACCESSの最高技術責任者(CTO)である石黒邦宏氏
ACCESSの最高技術責任者(CTO)である石黒邦宏氏
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 ACCESSは2010年11月15日,一般ユーザー向けのアプリケーション・ソフトウエア(アプリ)である「NetFront Life」シリーズを発表した(ニュースリリースITproの記事)。Webブラウザーの「NetFront Life Browser」,ドキュメント・ビューアの「NetFront Life Documents」,ホーム・スクリーンを提供する「NetFront Life Screen」からなる。いずれもAndroid向けであり,Android Marketから無料でダウンロードして利用できる。これらの製品を開発した狙いを,ACCESSの最高技術責任者(CTO)である石黒邦宏氏に聞いた。(聞き手は大森 敏行=日経エレクトロニクス)

問 NetFront Lifeシリーズを開発した理由を教えてください。

石黒氏 当社は,ここ10年くらい携帯電話機向けのWebブラウザーに注力してきました。こうしたWebブラウザーは,まず通信事業者やメーカーと話し合い,製品に組み込むことで,ようやくユーザーの手元に届きます。このため,Webブラウザーを開発してから市場に出るまでに1年から1年半程度かかっていました。思いついた機能をすぐにユーザーに提供できず,若干,歯がゆい思いをすることもありました。

 ところが最近は,iPhoneやAndroid端末といったスマートフォンの普及により,ソフトウエアをユーザーに直接届けられるようになってきました。そこで,これまでの組み込み向けの経験を生かし,便利なソフトウエアをユーザーに直接問うてみようと思ったのです。一般向けに公開すれば,ユーザーの意見により鍛えられ,アップデートで品質を上げていくことができます。ユーザーが増えていけば,Android端末を開発しているメーカーにプリインストールの提案もできます。

問 既に標準のWebブラウザーが存在するAndroid向けにあえて別のWebブラウザーを提供する狙いは何でしょうか。

石黒氏 標準のWebブラウザーにはないおもしろい機能を盛り込むことで,「使っていて楽しいブラウザー」を作れるのではないかと思ったのです。例えば,NetFront Life Browserには,端末を斜めに傾けることでWebページを斜めに表示する機能があります。それほど注目されるとは思わなかったのですが,「おもしろい」とよく言ってもらえます。簡単にスクラップを取れる機能もあります。

 (2本指で縮小・拡大の操作を行う)ピンチイン/ピンチアウトには対応していません。開発当初は対応していたのですが,「1本指による操作にこだわりたい」という開発チームの要望で,あえて外したのです。ただ,ユーザーからは「対応してほしい」との要望が多いので,次期バージョンで復活させる予定です。

問 ベースになっているのはパソコン向けの既存のNetFrontですか。

石黒氏 いいえ,自社のブラウザー・エンジンは使っていません。オープンソースの「WebKit」を利用しています。WebKitを採用したNetFrontは,これが初めてになります。

 今後は,WebKitによる表示を前提にしたWebページが増えていくはずです。当社では,高速なプロセサや潤沢なメモリを利用できるハイエンド系はWebKitベース,リソースが限られる組み込み系は独自エンジンと使い分けていくことを考えています。

問 WebKitを採用することで,従来の開発チームとの摩擦はありませんでしたか。

石黒氏 たしかに,社内ではWebKitチームと独自エンジンのチームが分かれていて,その間で競争しています。ただ,独自エンジンのNetFrontは,厳しいプロセサやメモリの環境でも動くよう10年以上開発してきた歴史があります。この経験が,WebKit版の開発にも役立っていると考えています。

問 ドキュメント・ビューアのNetFront Life Documentsを提供するのはなぜですか。

石黒氏 自社で表示エンジンを持っていたからです。当社はNTTドコモにドキュメント・ビューアをライセンスしており,ほぼすべてのNTTドコモの携帯電話機に搭載されています。スクロールやズームが速いという特徴があり,複雑なグラフの表示にも対応しています。

問 ホーム・スクリーンのNetFront Life Screenはどのような経緯ですか。

石黒氏 ACCESS Linux Platform (ALP)プロジェクトのユーザー・インタフェースを持ってきました。アプリを立ち上げなくても中の情報を表示できるという特徴があります。例えば,電話帳のアプリを選択するだけで,電話帳の内容が表示されます。スキンを変更することで見た目を変えることも可能です。今後は,別のスキンも提供していく予定です。

問 将来的に,ACCESSにとってNetFront Lifeシリーズはどのような位置付けの製品になるのでしょうか。

石黒氏 エンド・ユーザーがACCESSという会社をイメージするときにNetFront Lifeを思い浮かべてもらえるような存在にしていきたいと思っています。

 広告事業へのチャレンジという意味合いもあります。NetFront Life Documentsには,広告が表示される無料版と広告が表示されない有料版を用意しました。今までは,アプリに広告を表示しようと思っても,日本では携帯電話事業者との兼ね合いで,勝手に表示するのは困難でした。これがAndroidでは可能になります。今はNetFront Life自体の広告しか表示していませんが,今後はパートナー企業を経由した広告も表示していく予定です。

 個人の開発者がアプリ内に広告を表示できるようにする仕組みも立ち上げたいと思っています。この分野のサービスは,米Apple社が買収したQuattro Wireless社や米Google社のAdMobくらいしかなく,まだそんなに競争が激しくないので,狙い目だと思っています。

問 相変わらずコードは書いているのですか。

石黒氏 はい。IP Infusion社での開発ではC言語を使っていたのですが,最近はJavaでAndroid向けアプリを書いたり,Objective-CでiPhone向けアプリを書いたりしています。ただ,アプリには専門の開発チームがあるので,クリティカルなものは触らせてもらえなくなりました。専らデモ・アプリなどを書いています。