Ali Sadri氏
Ali Sadri氏
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 60GHz帯のミリ波無線技術を,デジタル家電に適用するための取り組みが動き始めた。ミリ波無線の業界団体である「WiGig(Wireless Gigabit)Alliance」は,無線LANの業界団体「Wi-Fi Alliance」と連携することを発表した(Tech-On!の関連記事)。これにより,IEEE802.11n後継の次世代無線LANに,ミリ波が活用される方向性が現実的になってきた。WiGig Allianceの議長で,米Intel Corp.,Director of Wireless PAN and 60 GHz standardsのAli Sadri氏に,連携の狙いを聞いた。(聞き手は蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス)


――WiGigは今回,無線LANの業界団体であるWi-Fi Allianceと連携していくことを明らかにした。どのような狙いがあるのか?

Sadri氏 Wi-Fi側とは,半年ほど前から協議を進めてきた。その方向性がようやくまとまったため,先日発表することにした。今後我々は,Wi-Fi Allianceにおける次世代無線LANの標準化活動に関わっていく。具体的には,Wi-Fi Allianceの中にある60GHz帯利用の作業部会に,WiGigの担当者が公式のリエゾンとして参加する。また,WiGigが策定した仕様を,Wi-Fi Allianceの担当者にレビューしてもらうほか,市場に対する見方などについてコメントをもらうなど,双方向の協議を増やしていく方針だ。


――WiGigは,次世代の無線LAN仕様に位置づけられることになるのか?

Sadri氏 それはまさに,我々が期待するところだ。そこに向かって努力していく。もちろん,手を打っている。例えば,次世代無線LAN仕様を策定中のIEEE802.11のタスク・グループad(TGad)と,コラボレーションを進めている。WiGigが策定した仕様は,TGadの仕様に非常に近い(Tech-On!の関連記事)。TGadは,11n後継の次世代無線LANを審議する作業部会であることを考えると,WiGigは将来の無線LANにとって重要な技術になると言えるだろう。

 ただし,気をつけてほしいのは,WiGigにとって,無線LANはアプリケーションの一つに過ぎないということだ。WiGigは物理層を中心とした仕様であり,上位層には様々なアプリケーションを位置づけることができる。無線LAN以外にも,PCI ExpressやUSB 3.0,HDMI,DisplayPortなど,様々なインタフェースを無線化する足回りになる技術だ。我々はそのために,各種の上位層の仕様で利用するためのPAL(protocol adaptation layer)を用意する方針である。非常に広範な用途を想定する仕様と,認識してもらいたい。

 スタートアップ企業の場合は,アプリケーションを明確にして,短期的に成果が出るようなビジネスを進めなければならない。例えば,ミリ波チップで先行する米SiBEAM,Inc.がHDMIの無線版の用途に集中しているのは,そういう背景があると思う(Tech-On!の関連記事)。一方の我々は,スタートアップ企業ではない。用途を限定せず,会員企業が様々な市場にアクセスできるシカケをつくるのが役目だ。その用途の一つがWi-Fi(無線LAN)であり,その後さらに広げていくというコンセプトである。


――WiGig対応機器は,いつごろ市場に登場するのか?  

Sadri氏 現在,WiGig仕様が会員企業に公開された段階である。複数の会員企業が,対応チップセットの開発を進めているようだ。同時に,テスト仕様の策定も始まっている。テスト仕様策定には,あと1年程度かかりそうだ。相互接続性試験も,順次開始する予定である。来年には,試作機などが見られるのではないか。

 このほか,HDMIやPCI-SIG,USB-IFといった他団体とのリエゾン構築活動も,今後進める予定だ。無線LAN以外のアプリケーションでも,試作機や製品が登場してくる可能性はある。



――もし無線LAN用途の機器の場合,Wi-FiとWiGigの両方のロゴを使うことになるのか?

Sadri氏 その点はまだ確定していない。WiGigのロゴの価値を,真剣に検討中である。例えばWirelessHD対応機器に,「WiHD」のロゴとHDMIのロゴを両方貼る場合があるように,「WiGig」という名称が価値を生む場合もあるだろう。


――WiGigの活動には,Intel社が積極的に関わっている。数年前までIntel社は,USBの無線化といった用途には,「UWB(ultra wideband)」の利用を推進していたが,途中でトーンダウンした。今回のWiGigは,かつてのUWBのようにトーンダウンすることは無いのか?

Sadri氏 確かにかつてIntel社は,WirelessUSBの実現に向け,UWBを推進していた。今はそのチームを解散してしまった。UWBを使ったWirelessUSBの敗因の一つは,Wi-Fiと競合関係に陥ったことにある。当時は,「UWB対11n」という構図になっていた。UWBを物理層に使うWirelessUSBは,11nとはまったく相容れないものだった。

 我々はその失敗から学んだ。Wi-Fiと競ってはいけないということを。Wi-Fiを置き換えるものを志向するのではなく,Wi-Fiを拡張する技術を目指すべきなのである。WiGigのスペックは,IEEE802.11adであることから,まさに次世代無線LANそのものだ。この技術を,USBやPCIExpressの無線化に活用していけばいい。

 このほかUWBが失敗した理由には,各国の法規制に縛られたという点がある。この点,ミリ波は7~9GHzという非常に広い帯域幅を,多くの国で利用可能な状況にある。この点は,大きな強みだと考えている。


――次世代無線LAN仕様の策定作業を進めるのは,11adだけではない。6GHz以下の周波数を使う11ac(TGac)の活動もある。

Sadri氏 11acは,WiGigが志向するような7Gビット/秒という高速性を確保するのは難しいだろう。また11acはMIMOによる多数のアンテナ利用が前提になることから,例えば携帯電話機のような小型機器に組み込むのは難しいのではないか。アンテナが小さくて済むミリ波を活用するWiGig(11ad)であれば,携帯電話機に組み込むのは容易だ。そうした点で,11acとは役割が分かれていくだろう。