――とすると,日本メーカーは危機的な状況にあると言えますね。

中国Haier社は,2010 International CESで電源用コンセントのないテレビを見せた。

 韓国勢には大きく離され,後ろから中国勢がすごいスピードで追いついて来る間に,日本勢がいる。これが世界の中における,現在の日本の家電業界の位置なのだと思う。

 こうした危機にも係わらず,3Dテレビ一色になっている状況をみると非常に心配になる。このままではこの危機を脱出できるどころか,米国で家電メーカーが消滅した時と同じ道を辿るかも知れない。

 CESに関する報道もずいぶん見たが,一部を除くと「3Dテレビ元年」などと,日本の大手家電メーカーの戦略に沿って書き立てる記事が多いように感じた。3Dテレビの課題を伏せて,家電メーカーと一緒になって騒いるようでは,メディアとして問題だろう。韓国メーカーや中国メーカーの現状と比較して,日本メーカーの現状を,冷静かつ客観的に論じた記事は少なかったように思う。その点に関しても残念だった。もう少し世界の中の日本の現状,技術も含めて見た冷静な記事を期待したい。

――日本メーカーはどうすれば危機から脱出できるのでしょうか。

 日本の家電メーカーがこのような危機を迎えて久しい。大きな原因は,商品企画,即ちアイデアやそれを実現する技術の欠如に集約されると思っている。安易な従来からある技術で誰でも簡単に参入できる3Dテレビに集中してしまう状況を見ると,他にやるべきことを考えつかないのだろうかと思ってしまう。

 米国はテレビなどを作る家電メーカーがほぼ脱落した後に,米Microsoft社といったソフトウエア産業が生まれた。さらにGoogle社といった企業も続いている。Apple社も一度は危機に陥ったが,上手にソフトウエア産業に脱皮し,知恵とEMSを上手く使い,独自市場を作ってきている。

 翻って日本メーカーの現状を見ると,商品企画に目新しさがないうえに,米国のIT企業に相乗りするような製品が目立つ。例えば,「YouTube」などのGoogle社のサービスを利用したり,真似したりがせいぜい。なかなか日本メーカー,独自のアイデア商品が出ていないのは歯がゆい。

 ただし,韓国や中国,台湾の家電メーカーにもそれはできていない。彼らも将来の家電の姿を見せられる状況ではないのだ。つまり,今こそ日本メーカーが次の世代の家電の姿を指し示す必要がある。また,それが出来て初めて日本メーカーは,独自の地位を保ちつつ生き延びていけるだろう。

 こうした努力をせず,安易な新商品の導入が続くようなら,価格競争から抜け出ることができず,アジア勢に地位を譲る結末に成らざるを得ないと思う。