「視覚全色域カメラ」と銘打つ業務用デジタル・カメラ「YC-3300」
「視覚全色域カメラ」と銘打つ業務用デジタル・カメラ「YC-3300」
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YC-3300で撮影した映像を,LEDバックライトを用いた液晶モニター(右)に表示させた様子
YC-3300で撮影した映像を,LEDバックライトを用いた液晶モニター(右)に表示させた様子
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 画像処理技術や光計測技術などを開発するベンチャー企業・パパラボは,「視覚全色域カメラ」と銘打つ業務用デジタル・カメラ「YC-3300」を開発した。「人間の眼で見るのと同じ色で撮影できる」(同社)ことを特徴とし,デジタル・アーカイブや医療などの用途を想定する。

 同社 代表取締役の加藤誠氏に,今回のカメラについて聞いた。


――「視覚全色域カメラ」は,どのような特徴を持ったカメラですか。

加藤氏 人間の眼と同じ色域で,見たままの映像を撮影できるカメラだ。これまで,マルチバンド方式を利用した大掛かりな撮影装置によって同様の特徴を実現したものはあったが,実用的な撮影に使えるシンプルなカメラは存在しなかった。

 我々の評価では,視覚全色域において,色差1以下の精度で撮影できることを確認している。

――どのような技術によって実現したのですか。

加藤氏 静岡大学 下平研究室の研究成果である,3バンドの等色関数(S1,S2,S3)を利用した。これは,人間の眼の感度である標準的な等色関数を線形変換して得られたもので,三つのバンドがすべて正の値を持つことや,それぞれ単独のピークを持つこと,互いのピークの重なりが最小であることが特徴だ。

 この三つのバンドに対応したカラー・フィルタを開発し,カメラに組み込んだ。これにより,視覚全色域の撮影を可能にした。

――従来のカメラと比べ,カラー・フィルタだけが違うということですか。

加藤氏 大きく異なるのはカラー・フィルタだ。ただし,カラー・フィルタの性能の誤差を補正するための信号処理技術などを加えている。S1,S2,S3のカラー・フィルタ自体は静岡大学の技術だが,こうした補正技術などは我々の技術だ。

 YC-3300は,市販の業務用デジタル・カメラをベースに,カラー・フィルタや前出の信号処理部分などに改良を加えたもの。主なスペックとしては,有効画素数が4000×2672,画素サイズが9μm,12ビット記録だ。価格は1290万円。

 今後,画素数のスペックを落とすなどして価格を半分以下にした廉価版も用意したいと考えている。

――どのような用途での利用を想定しているのですか。

加藤氏 例えば,美術品などのデジタル・アーカイブといった用途は十分に考えられる。遠隔医療のような医療分野での利用も見込める。このほか,印刷物の色の評価(色差評価)などにも応用できるだろう。

 今後,映像を表示するディスプレイの側でも,広い色再現範囲を有したものが登場してくると見込まれる。特に期待しているのが,レーザ・ディスプレイ。例えば,三菱電機が米国で発売しているようなものだ(Tech-On!関連記事)。こうしたディスプレイを利用すれば,我々のカメラで撮影したものが,プロファイルなしにそのまま表示できる。