KUKA Roboter社アジア太平洋地区マネージングダイレクターのBruno Geiger氏

 世界的な不況で国内向け設備投資が冷え込む中,産業用ロボットメーカーである独KUKA Roboter社は2009年5月にテクニカルセンターを開設するなど,日本での活動を強化している。同社は日本にどのようなビジネスチャンスを期待しているのか,同社アジア太平洋地区マネージングダイレクターであるBruno Geiger氏に聞いた(聞き手は,高野 敦=日経ものづくり)。

――日本の設備投資は,直近では急速に冷え込んでおり,長期的にも拡大を見込みにくい状況だ。その日本を有望な市場と位置付けているのはなぜか?

Geiger氏:今後の日本に期待しているのは「高品質」,具体的には高精度なロボットの需要だ。我々の顧客からは,安いだけのロボットはもう要らないと言われている。高精度なロボットは,成長産業で使われているので,不況の影響をほとんど受けておらず,むしろ需要がぐんぐん増えている。例えば,レーザ溶接やレーザ切断,水ジェット切断などのアプリケーションに用いるロボットが有望だ。

――(KUKA Roboter社の)CEOであるManfred Gundel氏は,医療・介護分野向けのサービスロボットに力を注ぐと発言していた(Tech-On!の関連記事)。高齢化が著しい日本でもそうした分野向けのサービスロボットの需要も伸びてくると思われるが,どのような戦略で臨むのか?

Geiger氏:確かに「サービスロボット」という言葉は多くのワークショップやメディアで見掛けるようになったが,我々にとっては定義が明確でない言葉であると考えている。我々の問題意識としては,ロボットが人に極めて近いところで動く,つまりロボットの周囲にフェンスが設けられていない,またはロボットの可動域に制限が設定されていないなどの条件で動くということにある。従って,基本的な安全の問題を解決することがカギになる。安全の問題を解決するいう点では,工場(で人を支援するタイプの)ロボットと,(サービスロボットといわれる)医療現場などで使うロボットを切り分けて論じることにあまり意味はないと考えている。安全に関しては,センサなど新しい技術分野で解を見いだしていきたい。

――もう少し安全性について聞きたい。医療・介護現場などロボットの用途が拡大すると,ロボットにあまり詳しくない人がロボットを操作するといった局面が増えてくる。そういう意味でも安全性の確保はより難しくなるのではないか?

Geiger氏:人とロボットが近くで協業するような使い方が増えると,確かにそうした安全性の問題は浮上してくる。ロボット単体だけでなくティーチングやプログラミングなどによってカバーしていきたい。具体的には,必ずしもロボットに詳しくない人でも直感的にロボットを理解できるよう,絵や記号を使ってロボットの動きを調整できる仕組みなどが考えられる。ロボットの理解を促す取り組みが重要だ。

――ロボットの用途が拡大するとなると,使用現場に関する知識やノウハウを持つ企業との協業が重要になるが,どのように関係を構築していくのか?

Geiger氏:日本では,既にたくさんの企業がロボットを使いこなしている。このことは,新興国にはない強みだ。協業ということに関していえば,まず我々の技術をよく理解してもらうことが大事だと考えている。同じレベル,同じ目線で議論できなければならない。そうした相互理解が前提としてあって,初めてビジネスのアイデアが出てくる。そうしたステップを抜いて,いきなり協業の可能性を探りましょうといって議論を始めても,大抵の場合は議論がかみ合わないことが多い。既存の技術や状況に関する理解があるからこそ,将来のビジネスに求められる技術上の要件も見えてくるものだ。

――アジア太平洋地域ということでは,中国やインドなどの新興国市場をどう見ているか?

Geiger氏:中国もインドも成長の原動力となっているセグメントは自動車だ。例えば中国では,自動車産業の成長に伴い,ティア1~3ぐらいの自動車部品メーカーがタケノコのようにたくさん生まれてきている。従って,これらの新興国では,(自動車産業が経済成長を押し上げてきた)過去の日本と同様のアプローチが有効だと考えている。自動車以外では,航空機や太陽電池なども有望な分野だ。

 また,人口が多い中国や東南アジアでは,食品・飲料や日用品など消費財の生産・物流現場に用いるロボットのニーズが高まると考えている。現在,これらの分野は人手に頼っているが,いずれ処理量の増加に対処しきれなくなり,生産性の高いロボットを求めるようになるだろう。