「家電が果たす役割を大きく変える」と宣言し,異業種からインターネットを活用した家電(Web家電)事業に参入するベンチャーがある。石田宏樹氏が率いるフリービットである。石田氏は三菱電機の子会社がインターネット接続事業者(ISP)であるDTIを立ち上げた際に中核メンバーとして係わった実績で知られる人物だ。

 フリービットは現在傘下に収めるDTIの新規加入者に対して,撮った画像を極めて簡単にWebに公開できるデジタル・カメラやビデオ・カメラの配布を開始。2009年9月下旬には,「Flip Video」のように小さなビデオ・カメラの発売に踏み切る(発売元は同社出資先のエグゼモード)。

 フリービットの石田氏は,日本の家電メーカーが悩まされ続けている「低価格化(価格下落)こそがチャンスだ」と言い切る。その裏にはどんな考えがあるのか。石田氏とエグゼモード 代表取締役 社長の藤岡淳一氏に話を聞いた(写真:加藤 康)。

―― Web家電はとても簡単とは思えない事業です。なぜ参入するのですか?

石田氏 新しい家電を自ら生み出すことが夢だからです。ISP関連事業の強化などによって,ようやく今,それに挑める体力や技術力を得られました。リスクが大きいことは承知しています。当社子会社のDTIの取締役だった,ACCESS 代表取締役会長 兼 最高経営責任者 (CEO)の荒川亨さんにも反対されました。「せっかく売り上げの95%を継続課金で得られるビジネス・モデルを確立したのに,在庫を持つ家電事業なんて…」という具合に。

 しかしこの夢は,私どもの企業理念「Internetをひろげ,社会に貢献する」と不可分です。現行の家電はWebがなかった時代の技術によって,作られています。Webの技術・サービスが与える影響の大きさを考えれば,今の家電は20年前,30年前の技術に縛られているといっていい。

 例えば洗濯機。かつて洗濯機を生み出した技術者は,洗濯を楽にするため自らの知恵と技術を投入しました。決して洗濯機を作りたかったわけではない。目的に立ち返れば将来的に,個々の家庭が洗濯機を占有しなくてもいいんじゃないでしょうか。Webを介して洗濯物が溜まっていく状況を監視し,一定時点で回収し洗濯する事業者がいればいい。冷蔵庫だって,同じようなことが考えられる。

 デジタル・カメラやビデオ・カメラについて言えば,なぜ画像処理を撮影直後に完了してしまうのでしょう。アルゴリズムは年々良くなり,サーバー・コストは2年で半分以下になるのに…。画像ファイルを溜めたストレージと,画質向上のWebサービスを連携させれば,撮った画像の画質を年々向上できます。

 こうした思いを理解するDTI 取締役でジャーナリストの木村太郎さんと荒川さんに意見を聞いた上で,フリービットとして家電事業を始めることを決めました。とはいえ,分からないことだらけですので,持分法の適用外に抑えてエグゼモードへの出資するといった対策は打っています。