米Microsoft社が2009年10月に発売するWindows7は,センサやGPS機能搭載システムの開発環境「Sensor & Location Platform」を用意した。これはどのようなものか,どういうメリットがあるのか,なぜ今Microsoft社がこのような環境を用意したのかを,マイクロソフトのエンベデッドエバンジェリストの太田 寛氏(デベロッパー&プラットフォーム統括本部)に聞いた。(聞き手は安保秀雄=編集委員)


問 「Sensor & Location Platform」とは,何でしょうか。あらためて説明していただけますか。

太田 寛氏
太田 寛氏

太田氏 近年MEMS(micro electro mechanical systems)の技術の発展により,加速度センサやGPSをはじめとするさまざまなセンサが普及してきました。Sensor & Location Platformは,Windows上でセンサを扱うための統一的な技術体系として開発者に提供するプラットフォームです。

問 「Sensor & Location Platform」の中身を具体的に解説してください。機器やセンサの開発者にとってメリットは何でしょうか。

図1 Sensor & Location Platformが提供する機能
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太田氏 Sensor & Location Platformは,開発者に対しセンサ・デバイスを活用したシステムを開発するために必要な機能を提供します(図1)。

 従来,センサAPI(application programming interface)はメーカーが各社各様の仕様で定義するのが一般的だったと思います。また,センサを利用するアプリケーションと一体で開発されることも一般的でした。このような状況では,アプリケーション側から見ると,別のメーカーから提供されるセンサに置き換えることが難しく,製品の機能拡張の際に別の種類のセンサを追加するのも容易ではありません。特定の古いハードウエアやOSに縛られることにもなりかねません。

 センサ側から見れば,そのセンサが採用される機会が限定的になり,センサ・デバイス開発への投資に慎重にならざるを得ません。また,センサ種別ごとにAPIやSDK(software development kit)を個別に開発・保守するコストもかかります。

 センサを扱うための仕組み・形式が統一されることにより,アプリケーション側では,個々のセンサの特殊性に煩わされることなく,あらかじめ決まったAPIに基づいて開発を進めることができるようになります。加えて,システムの制約に基づいて,センサを選択することが可能になります。センサ・デバイス側では,いちいち特殊なAPIやSDKを開発・保守する必要はなくなり,センサ・デバイスがさまざまな機器で採用される機会が増えます。

図2 対応するセンサ
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図3 デバイス・ドライバの構成
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 対応するセンサの種別は,位置,温度など環境,加速度などモーション,方向,電流・電圧,応力など機械,照度,スキャナというように多様です(図2,図3)。

 これは私見ですが,Sensor & Location Platformは実デバイスに関係なくAPIが統一的に定義されているので,同一種類のセンサを複数使ったり異種センサを組み合わせたりした,新しいアイデアに基づいた機器出現のトリガになるのではないかと期待しています。

問 なぜ米Microsoft社はこの時期にこのような開発環境を用意したのでしょうか。

太田氏 逆に,今までセンサに関する統一的なAPIがなかったのが不思議なくらいです。周りを見回してみれば,最近の携帯電話機にはGPSや加速度センサがついている機器が増えてきましたし,近づけばスイッチが入る人感センサ付きの電灯,温度センサがついたエアコン,センサの塊の自動車など,センサがあふれています。

 またMEMS技術の発達によって,さまざまな種類のセンサがより安価により容易に手に入るようになってきました。パソコンにも一部の機種には,加速度センサや温度センサ,指紋センサなどが既に搭載されています。今後,パソコンに多様なセンサ・デバイスがつながって,従来のトレンドの延長上にはない新しいタイプのパソコン(それをパソコンと呼んでよいのか迷いますが)が出現してくるでしょう。同じ流儀,同じ形式の一貫したAPIはやはり必要になってくるはずです。

 一方で,標準化することによりパフォーマンスが下がったりハードウエア面のコスト増は当然あります。しかし,ハードウエアの高性能・高機能化と低価格化が進んでいますので,それが問題にならない応用が増えていると思います。

問 世界ではどのような企業や技術者が,今回のプラットフォームを利用しそうでしょうか。日本ではいかがでしょうか。

太田氏 指紋認証などのデバイスを開発するパソコン業界の企業が,いち早く取り組んでいます。私見ですが,このほかに世界ではベンチャー系の企業が,新しい種類のセンサ・デバイスを出してくるように思います。それから流通業や製造業などが,ネットワーク上のサービスと組み込み機器を連携させる中でSensor & Location Platformを利用すると思います。一番ありそうなのがCO2削減に向けたエコ(環境問題)向けでしょうか。

 日本についても,大きな違いはないとは思います。組み込み大国である日本は,センサ技術や組み込み技術で非常に高度な技術を持っている企業が多いですし,センサを活用した新しいソリューションのアイデアが豊富な企業も多いので,このプラットフォームをすぐ活用できると思います。

これまでの試作例,開発例