問 なぜセンサ・ネットワークの応用が進み始めたのでしょうか。Crossbow社のシステムは,2000年代初頭にすでに小さいメモリ容量で実行できる小型センサ向けのOS「TinyOS」を備えており,基本的な技術はかなりそろっていたように思います(関連記事「『アドホック・センサ・ネットワーク』が現実に」)。

宮本氏 センサ・ネットワーの応用の開拓が進み始めた理由として,主に3つあると思います。センサ・ノードを構成するハードウエアの進化,無線通信規格の標準化,研究やプロトタイピングでの成果の蓄積です。

 一つ目のセンサ・ノードを構成するハードウエアの進化についてですが,マイコンや無線IC,センサの低コスト化,低消費電力化がどんどん進みました。大量生産時には1モジュール当たり2000円を切るものも実現可能になってきました。センサ・ネットワークを利用することによって得られる効果はアプリケーションによって異なるので,目標コストは一意には決まらないのですが,多くの応用で実用化の壁になっていたコストの問題は解決されつつあります。低消費電力化による電池寿命の改善も進んでおり,コストと同じように実用化の上で問題にならない場合が多くなってきました。

 二つ目の無線通信規格については,ZigBeeが物理層として利用しているIEEE802.15.4が2003年に策定されたことにより,センサ・データの伝送には十分な250kビット/秒という速度で低消費電力,免許不要で使える無線が利用可能になりました。電波法の技適(技術基準適合証明)はモジュールやセンサ・ノードで取っていればよく,利用者が技適を取る必要はありません。

 それまでは微弱無線や特定小電力無線が使われていましたが,データ伝送速度が十分でなかったり無線ICのプログラミングが複雑であったりという問題がありました。

 また,IEEE802.15.4準拠の無線ICはさまざまな製品に使われはじめたので,無線ICの低コスト化がさらに進むと期待できます。プロトコル上位側でZigBeeやWirelessHART,ISA-SP100などの規格が策定され,グローバルな標準規格にこだわる企業・アプリケーションでの利用もはじまりました。

 三つ目の研究やプロトタイピングの成果の蓄積も,実用化を牽引しています。例えば工場などの設備の異常監視では,振動などを監視して機器の異常の前兆を検出して故障予防をはかるのですが,これを行うためには観測された事象と機器の故障との相関をとる必要があります。このように実用前の検証に時間を要するアプリケーションで,センシング対象の分析が進み実用段階に達してきたものも増えてきました。

今後の課題は何か