センサを無線ネットワークでつないでデータを収集するセンサ・ネットワークは,最近ようやく研究段階から実用段階に進み始めた。どんな応用に利用され始めたのか,なぜ最近利用されるようになってきたのか,今後の課題について,実際に開発にあたっている住友精密工業センサネットワーク事業室の宮本 哲氏(技術グループ グループ長)に聞いた。(聞き手は安保秀雄=編集委員)

問 無線を利用したセンサ・ネットワークの開発は,これまでどのように推移してきたのでしょうか。

宮本 哲氏

宮本氏 センサ・ネットワークが一躍注目を集めるきっかけになったのは,1998年から2001年にかけて行われた「SMART DUST」プロジェクトでした。これは米国防総省DARPAの資金提供を受けて米カリフォルニア大学バークレイ校(University of California Berkeley)が中心となったプロジェクトで,MEMS(micro electro mechanical systems)技術を使って超小型の無線センサ・ノードを開発することを目的としたものです。「SMART DUST」(賢い塵)という名前が示す通り,超小型のセンサ・ノードが空気中を漂いながら周囲の環境情報を収集しネットワークを通じて遠隔地に伝える,ということを究極の目標としていました。空気中に浮かぶものはできませんでしたが,体積が10mm3程度と小さいセンサ・ノードのプロトタイプを開発しました。

 その後,市販されている部品を使って低コストで入手が容易なセンサ・ノードを開発するプロジェクトが進み,そこから米Crossbow Technology, Inc.が製品化したセンサ・ネットワークのプラットフォーム「MICA MOTE(マイカ・モート)」などが生まれました。入手が容易なセンサ・ネットワークのプラットフォームが登場したことにより,センサ・ネットワークの研究領域も実際のアプリケーションへと広がっていき,そこからのフィードバックによってセンサ・ネットワークのプラットフォームもまた進化していきました。

 当初はDARPAのプロジェクトということもあり,戦場の状況把握など軍事色の強いアプリケーションが多かったのですが,生態系調査や工場設備監視,人やモノのトラッキング,防災といったアプリケーションも研究されました。

 国内では当社がCrossbow社と協業関係にあり,MOTE関連製品・システムを開発しています。最初は大学や研究機関向けが多かったのですが,ここ2~3年の間に店舗や工場で実際に利用されることが増えてきています。スーパーマーケットの冷蔵棚の温度管理を行う省エネ・システムや,オフィスや工場の省エネのためのエネルギー監視などに利用されています。工場のFA機器の制御にも使われており,配線を少なくすることによって設置やレイアウト変更に伴う工事コストを削減できます。

 海外でも上記の応用に使われることが多いのですが,広大な農園が多いこともあり農園の環境監視にセンサ・ネットワークが使われています。農業や屋外での需要が多く今後伸びると見て,昨年Crossbow社がこうした用途に向けたセンサ・ネットワーク製品「eKo」を発売しました。日本でも発売中で,農業関連の大学や研究機関で使われ始めています。

 これは防水筐体に乾電池のほかに太陽電池を搭載したセンサ・ノードで,電池寿命は数年と長いので電池交換の手間を減らせます。カリフォルニアのぶどう園では土湿計測などで灌水の最適化をはかり,コスト削減とぶどうの品質向上を両立させています。このほかにも,センサ・ネットワークは石油精製所などのプラント監視にも使われています。電源を確保することが難しい屋外では,配線不要で広い領域をカバーできるセンサ・ネットワークは適しています。無線通信規格には,IEEE802.15.4を利用しています。

なぜ今,応用の開拓が進み始めたか