2015年までにロボットを家電や自動車のように普及させる。このような目標を掲げ,トヨタ自動車やパナソニックなどとの共同研究を進めているのが,東京大学の下山勲氏である。IT(情報通信技術)とRT(ロボット技術)による新型ロボットの開発を目指すIRT研究機構を率いる。新型ロボットは,デバイス市場に数十兆円規模の新規需要を創出する。2009年5月開催の「MEMS International 2009」では,下山氏のほか,中核企業として参加しているパナソニックとトヨタ自動車が,開発の成果と方向性について語る。
―なぜロボットが注目できるのでしょうか。
今後の人口構成の変化を考えると,余暇を作るロボットが家庭には必要になります。日本の未婚率は増加し,結婚しても子供のいない世帯の比率が高まっていきます。その一方,人口は減っています。日本の人口は今後50年で現在の3/4になる見込みです。労働力の不足によって,夫婦が共に働かないとやっていけない時代になります。
そうしたなか家庭用ロボットは,既存の家電では効率化できない家事を自動化してくれます。料理の後片付けや洗濯物の折り畳みなどを行います。その結果,家族と共に過ごす時間を作ることができます。社会参加に充てる時間も増えます。人口が減ってもGDP(国内総生産)を押し上げることができます。
―実際に売れるロボットとは,どのようなものでしょうか。
必要なのは役立つロボットです。われわれは,外部機関に委託して家庭用ロボットの市場性を調査しました。実現可能なロボットを想定し,その購入意欲を1000人にアンケート調査したのです。例えば,部屋の掃除,料理の後片付け,といった機能を提示しました。20%の人が,販売価格が100万円でも購入するというのです。ここから推測すると,日本だけで10兆円規模の市場が生まれることになります。
―置き換えではない,新規市場を創出できるわけですね。
ロボットに限らず,関連事業の市場もあります。自動車のように,中古ロボット販売,車検のような検査サービス,損害保険など多様な事業があります。
また家庭以外にもロボット市場が広がる可能性があります。例えばレストランで使われる可能性があります。われわれ自身は計画していませんが,農業や林業といった産業の人手を補うロボットもあり得ます。これまで工場の自動化は大きく進展しましたが,家庭,農業,林業の自動化は遅れていました。ロボットがその役割を担うことになります。