ACCESSは2009年2月1日に,同社が2006年に買収した米IP Infusion Inc.の共同創業者でCTOを務めていた石黒邦宏氏が,ACCESSの常務執行役員 兼 最高技術責任者(CTO) 兼 最高情報責任者に就任した。ACCESSの取締役副社長 兼 最高技術責任者だった鎌田富久氏が代表取締役社長 兼 共同最高経営責任者(Co-CEO)に就任したのに伴うものである(PDF形式の発表資料)。新CTOの石黒氏は,ルーティング・ソフトウエア「ZebOS」の開発者として知られる国際的なソフトウエア技術者である。ACCESSのCTOとして何を目指すのか,石黒氏に聞いた。(聞き手=竹居 智久)

――IP Infusion社の買収から,これまでの経緯を教えていただけますか。

 私は,ルーティング・ソフトウエアなどを開発するIP Infusion社を1999年に共同で設立し,そこでCTOを務めていました。ACCESSによるIP Infusion社の買収が決まったのは2006年2月末のことです。それから2年間は,主にIP Infusion社の事業を見ていまして,DLNAミドルウエアのプログラムを書いたりしていました。今ACCESSが提供しているDLNAミドルウエアは,IP Infusion社で私ともう一人の技術者が開発し,それをACCESSに移管したものです。

 そして1年前くらいから,ACCESS本社の事業についても見るようになってきました。これからはCTOとして,ACCESSの製品全体を見ていくことになります。ACCESSは,もはやWebブラウザーだけの会社,モバイルだけの会社ではありません。携帯電話機向けソフトウエアの比率が最も高いのは確かですが,テレビやカーナビ,携帯型情報端末などにも我々のソフトウエアが採用されています。ソフトウエアの分野としても,Webブラウザーだけでなく,通信の下回りに関連するものや,メール・ソフト,そしてLinuxプラットフォームなどがあります。また,端末向けのソフトウエアだけでなく,ウィジェット配布用ソフトウエアといったサーバー系の製品も多くあります。「一通りのソフトウエアを持っている」と言えるでしょう。数多くある製品を,きれいに整理して提供していきたいと考えています。

――ACCESSの主力事業である携帯電話機向けWebブラウザーの分野では,最近は「WebKit」などのオープンソースのレンダリング・エンジンを利用したWebブラウザーが多く採用されるようになっています。ACCESSはどのように対応していこうと考えていますか。

 オープンソースの「FireFox」や,オープンソースのHTML描画エンジンである「WebKit」を利用したApple社の「Safari」やGoogle社の「Chrome」など,オープンソース系のWebブラウザーが台頭してきたのは事実です。でも,「そうしたWebブラウザーにはそうそう負けやしない」という自信は持っています。

ACCESS 常務執行役員 兼 最高技術責任者 兼 最高情報責任者の石黒邦宏氏

 例えば現在のWebKitは,HTMLのレンダリング性能は高いけれども,携帯電話機などの資源が制限された環境ではメモリ管理に少し問題があることが知られています。我々には長きにわたる組み込みソフトウエア開発の経験があるし,携帯電話事業者の独自の要求に対応してきた実績もあります。

 現在,Webブラウザーの次世代版,我々のバージョンでは4に当たるものを開発しています。その開発目標は「マーケット最速のJavaScriptエンジン」です。ARMコアのバイト・コードを生成するJITコンパイラを実装しつつ,少ないメモリ・フットプリントを達成するつもりです。機能的には,パソコン用の「Internet Explorer」が出せるものを全部出せるようにします。有償であっても,「それだけの価値がある」と評価してもらえる製品にできると思っていますし,既にかなりいいところまで来ています。リリース時期は2009年中です。

――HTMLとJavaScriptという組み合わせは,Webブラウザーだけのものではなくなってきていますね。ACCESSも,いわゆる「ウィジェット」に力を入れていて,この2月には「BONDI」仕様への対応を発表しました。BONDIに対応する理由を教えてください。