「まだ面白い技術を開発する余地はたくさん残っている」
こう指摘するのは,ユーザー・インタフェース研究などで有名な慶応義塾大学環境情報学部の増井俊之教授だ。日本の携帯電話機で広く使われている「予測入力」などを開発したITの“発明おじさん”として知られる同氏は,「面白い発想は,いつの時代もベンチャー的なところから出てくる」と話す。
メーカー内だけでアイデアを練るのではなく,一般ユーザーを巻き込んで,草の根的に応用分野を開拓する。この取り組みがインターネット時代には重要性を増すと期待を寄せる。
(インタビューは,日経エレクトロニクス創刊1000号記念特集の一環で実施しました。特集誌面と連動した企画サイトはこちら)
「選択と集中」が進んだ結果かもしれませんが,大手企業では研究開発部門で“なぞのプロジェクト”が減ってますよね。以前は,少ない人数でこそこそと進めていて,「あそこは何をやってるんだ」と周りから言われるプロジェクトがありましたけれど,あまり聞かなくなりました。
最近は,個人で手に入る範囲の部品を組み合わせれば,アイデア一つで結構面白いものを作れるようになっています。エレクトロニクス関連部品のモジュール化が進んでいるからです。ちょうどマイコンキットの「TK-80」が出た当時と似た雰囲気を感じます。
だいぶ前ですが,HDDレコーダーが出始めのころ,ファームウエアを書き換えて,インターネット経由で外出先からリモートコントロールができるように改造するという話が,ネットで話題になったことがありました。もちろん,これはマニアの趣味的な話で,内部を“ハック”できる人しか手をつけられないけれど,「簡単にできるならやってみたい」と考えるユーザーは潜在的には少なくないのでは。
ハードウエアの“マッシュアップ”を実現せよ
インターネットでは,複数のネット・サービスの機能を組み合わせて,新たなサービスを作り出す「マッシュアップ」という取り組みが盛んです。それほどネットに詳しい人でなくても,ブログに地図を貼り付ける程度なら簡単にできる。それは,技術仕様が使いやすい形で公開されているからです。ハードウエアでも同じように“マッシュアップ”できる仕組みを整えれば,いろいろな人がモノづくりを始めるのではないでしょうか。
そういう意味では,ユーザー・インタフェースの分野は,その仕組みを作りやすいと思っています。ユーザーが最も触れることの多い部分であることに加え,機器の中身をいじるよりハードルが低いからです。簡単に使えるセンサ・モジュールを用意し,デジタル家電などと組み合わせるだけでも,結構面白いものが作れる。
例えば,座布団にセンサを組み込む。座っている間はスイッチが入らないけれど,トイレに行こうと思って立ち上がるとそれを検出してスイッチが入る。その信号が無線でHDDレコーダーに飛ぶ。見ていたテレビ番組はポーズで止まり,トイレから戻ってきて座布団に座ると再び番組が始まる――。